脳の健康のためには汗ばむくらいの運動が必要です。Shall we dance?

脳の健康のためには汗ばむくらいの運動が必要です。Shall we dance?

前回の「インスリンとアルツハイマー病」の記事をまとめ始めた頃、奇しくもニューヨークタイムズ紙のonline版に「アルツハイマー病は3型糖尿病?」という記事(by Mark Bittman)がアップされました。

これは医学トピックスではなく、米国の肥満を招く悪しき食事や生活習慣と、85歳以上の人口の半数に認知症が見られる現状を、アルツハイマー病を3型糖尿病と命名したSuzanne de la Monte(米・ブラウン大学、神経病理学者、医師)の最新論文の紹介と共に記述したものです。

インスリンとアルツハイマー病の研究は、どうも日米の糖尿病学会には温度差があるようです。日本でも高齢糖尿病患者の認知症のリスクは、アルツハイマー型認知症および脳血管性認知症ともに非糖尿病者の2~4倍になることは承知しているのに啓発などの話題性がありません。米国では糖尿病患者サイドにも最新の研究情報が分かりやすく提供されています。

2型糖尿病がアルツハイマー病の原因になるかどうかは今後の研究を待つしかありませんが、私はこの2大疾病が同じルーツを持つような気がしてなりません。なぜなら、脳神経細胞を壊すのは10年、20年にわたって蓄積する悪玉タンパク質のアミロイドβですが、実はインスリンを分泌する膵臓のベータ細胞を2型糖尿病になると10年、20年にわたって壊していくのもこのアミロイドβなのです。

それゆえか、アルツハイマー病を予防しようとする生活習慣改善は、2型糖尿病を予防(治療)する生活習慣改善と寸分たがわぬものになります。特にエクササイズ(運動)の効果が大きいようです。

心と運動

運動が体を健康に保つことは誰でも知っていますが、脳を正常に保つためにも必要なことが分かってきました。それも、ストレッチぐらいでは効果がなく、心拍数を上げる速歩や自転車こぎのようなエアロビクスでないと駄目なようです。

米ワシントン大学の神経心理学者のローラ・D・ベーカー博士(Laura D. Baker, PhD)は、「運動」が糖尿病予備群や2型糖尿病者がアルツハイマー病やその他の認知症になるのを止める、あるいは進行をゆっくりとさせる力があるかどうかに特に関心を持っています。

神経心理学(Neuropsycology)とは聞き慣れない言葉ですが、ドーランド医学大辞典によると、"脳の機能と認識過程あるいは行動との関係を研究する神経学と心理学を併合する原理で、心理学的テストと中枢神経系機能の評価法と特殊な行動や認識の欠損や異常の診断法を用いる"と書かれています。

記憶と加齢の研究の中で、2大疾病である糖尿病と認知症の関係は重要な研究テーマなのでしょう。

2004年に発表された高齢の1,000人近くの米国人スタディでも、2型糖尿病者は非糖尿病者に比べて65%もアルツハイマー病になりやすいことが分かっています。ベーカー(以下、博士号省略)によると、2型糖尿病は"年齢"に次ぐ最も影響力のある認知症のリスク因子だそうです。

2型糖尿病は脳をとても傷つきやすいものにしてしまいます。詳細は不明ですが、高血糖/高インスリン血症が脳の細小血管にダメージを与えて血管性認知症に、あるいはそれによる血行不良でアルツハイマー病の足がかりになることが十分に考えられます。

加えて糖尿病予備群も2型糖尿病も、思考力や記憶力を支えるインスリンレベルに難点があります。体は高インスリン、脳は低インスリンになりがちです。そのことは前回記事で記述しましたのでぜひご再読を。

ベーカーは軽度認知障害かつ糖尿病予備群でもある55~85歳の男女をランダムに二分して別々のエクササイズを課しました。全員がカウチポテト族、つまり運動大嫌い人間です。

一方のグループにはジムのメンバーになってもらって、トレーナー付きで週4回、6ヵ月の間、心拍数が上がるレベルまでトレッドミルやステーショナリーバイクでエアロビをしてもらいました。一方のグループはゆっくりとしたストレッチのみです。

6ヵ月後に認知障害のテスト、つまり記憶力や思考力、道具を巧みにあやつる能力等を精査したところ、エアロビグループが明らかに改善していました。ストレッチグループは変化なしでした。
この試験に参加した軽度認知障害とは、認知機能に若干の低下があるものの、生活には大きな支障はない、いわゆるグレーゾーンの状態です。どうやら、糖尿病予備群程度なら脳のダメージを止められそうなのです。ベーカーは心のためにも運動するように勧めています。

アルツハイマー病を予防する食事!?

9月26日放送のNHK番組「ためしてガッテン」で話題になった悪玉タンパク質アミロイドβを分解する「インスリン分解酵素」を増やす食事は、低脂肪ダイエットで、を多くとること、そして大豆であると米・UCLAのアルツハイマー病リサーチセンターの研究者たちが発表した論文があります。2004年のことですが、今日の認知症を防ぐ食事指導でも同様なことが言われています。

UCLAの研究はアルツハイマー病の鍵の一つであるインスリン分解酵素を調節する細胞や物質の解明でした。動物モデルやヒトの組織を使って分かったことは、1) 確かにアルツハイマー病の脳にはインスリン分解酵素が不足している、2) インスリンシグナルがインスリン分解酵素を発現させる、3) 低脂肪ダイエットでも高リノール酸オイルではインスリン分解酵素が高まらないということでした。

この高リノール酸オイルは、リノール酸(n-6)とαリノレン酸(n-3)の比、つまりn-6対n-3が85:1のベニバナ油でした。実験用のネズミの食餌は、通常は油脂のエネルギー比は11%で、n-6:n-3は7:1なのですが、この試験では高リノール酸オイルをエネルギー比6%の低脂肪食にしましたが結果が出ませんでした。

魚の油に多いn-3系のEPAやDHAは、脳に必要な油脂としてTVのサプリメントコマーシャルなどで聞かされていますが、確かにこれらは脳に必要なだけでなく、血中脂質のコレステロールを減らし、血圧を下げて血管を守ります。これに対しアルツハイマー病の患者は飽和脂肪酸の多い肉食中心の食生活の傾向が強いことは各国の研究で指摘されています。

更に野菜や果物の多い食事がアルツハイマー病を予防する効果があることもよく知られています。特に魚に加えて豆類や葉もの野菜やナッツ類、オリーブオイル、精白度の低い穀類、ほどほどのワインとくれば、申し分ない典型的な地中海型食生活です。脳によく、糖尿病によく、なによりも美味なヘルシー食です。

もちろん、減塩さえ心掛ければ和食も理想的ですし、インドや東南アジアのカレー料理もアルツハイマー病予防食として知られています。これはアルツハイマー病患者が一人もいないインドの村の研究から導かれた結果なのですが、初めてこのニュースに接したときは大いに疑った記憶があります。しかし今では自らスパイスをブレンドして、週イチのカレーは私が担当することにしています。
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