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認知症予防には、人とのつながり、社会とのかかわりが大切です。

2012年9月26日放送のNHK「ためしてガッテン」は、炭水化物の食べ過ぎによる脳の中の過剰なインスリンがアルツハイマー病を招く?!という話でした。「インスリン」という善玉ホルモンが犯人だった意外性がウリだったようですが、本当の黒幕の「インスリン抵抗性」が影に隠れてしまいました。

まだ謎の多い、2型糖尿病とインスリン抵抗性、認知症との関係を調べてみましょう。

アルツハイマー病の直接的な原因は2つあって、1つは老人斑(はん)とも言われるタンパク質のアミロイドβ(ベータ)が分解されずにたくさん蓄積されて、針のような形になって外から神経細胞を圧迫して壊してしまうということ。もう1つは神経細胞内にあるタウという特殊なタンパク質がリン酸化という異常な代謝を受けて「神経原線維」という糸くずのようなものになって神経細胞の中から細胞を萎縮させてしまうということです。

この2つのメカニズムにインスリンが関わっていて、1つは悪玉アミロイドβを分解する酵素が実は「インスリン分解酵素」だったので、もし脳内にインスリンが過剰にあればインスリン分解を優先するので、アミロイドβの分解が進まなくなって脳内にたまってしまうという仮説があります。NHKの番組ではここで話が終ってしまいました。

2つめのメカニズムは、脳の中にインスリン抵抗性(インスリンの作用不足)があると、神経細胞のインスリン伝達タンパク質の活性が落ちてグリコーゲン合成酵素キナーゼ3(以下、GSK3)を過剰に活性化させます。このGSK3がタウタンパクをリン酸化して、もつれた糸くずのようなもの(神経原線維)にしてしまいます。このGSK3は上記のアミロイドβの蓄積も促進するようなので、大いに注目されています。つまり、多過ぎるホルモン(インスリン)が誘導する、そのホルモンの作用阻害(インスリン抵抗性)という仮設です。

2型糖尿病、インスリン抵抗性そして認知症

2型糖尿病と認知症の関係は完全には解明されていません。しかし、世界中で肥満による2型糖尿病と高齢化に伴う認知症の増加が大きな社会問題になっています。糖尿病も認知症も膨大なコストを社会に負担させるからです。肥満による2型糖尿病患者が晩年には認知症も併発するとなれば、患者も社会も悲鳴を上げざるを得ません。この2大疾病がどのようにリンクしているのか、そのメカニズムが分かればどのように治療するか、研究の成果が待たれます。

ところで、認知症を引き起こす疾病は200~300もあると言われますが、認知症の大半はアルツハイマー病か脳梗塞などを原因とする脳血管性認知症です。全身の血管が損傷される糖尿病では、脳血管性が多いという見方が有力ですが、この2つを併せ持つケースがあるので詳細は不明です。

日本でも2011年に九州大学の研究者が2型糖尿病の疫学調査で名高い「久山町スタディ」から、糖尿病患者は2倍も認知症になりやすいことを発表しました。

フィンランドで1993年から行われているフィンランド糖尿病予防スタディも、すでに参加者が60代、70代になっているため、糖尿病のコントロールの程度と認知症との関連を研究するのに適切な条件が調ったとして、米国の研究者も参画して疫学調査が進行中です。

さて、上記のインスリン分解酵素(IDE;insulin degrading enzyme)とGSK3以外にも、エビデンス(根拠)に基づく、インスリン抵抗性と高血糖が認知症のリスクを高める次のような説があります。

  • 早朝空腹時の血糖値がそれほど高くなくても、血液中のインスリン濃度が高いとアルツハイマー病の発病リスクが高くなります。これはインスリン抵抗性がある証拠ですが、ある研究によるとインスリンレベルが89.4pmol/Lより高いと、アルツハイマー病になりやすくする遺伝子、アポリポタンパクE-ε(イプシロン)4型を持っているのと同等のリスクになります。
  • 高血糖は炎症と活性酸素を増やします。これらはアルツハイマー病のリスク因子でもあります。
  • インスリン抵抗性、メタボリックシンドローム、2型糖尿病は心臓病や脳卒中の発病リスクを高めます。心臓や全身の血管に起きている病変は脳にも起きています。高血圧と脂質異常が加わればさらに危険です。

なぜ、インスリンが?

インスリンの役割と言うと、誰でも大切なエネルギー源のブドウ糖を細胞内に取り込むことと思います。しかし、これはインスリン抵抗性の記事で説明したとおり、筋肉や脂肪細胞にあるブドウ糖輸送担体GLUT4だけの話で、脳神経細胞にあるGLUT1やGLUT3はインスリンを必要としていません。つまり、インスリンとは関係なくブドウ糖は神経細胞の中に入れるのです。

ところが短期記憶をつかさどる海馬などにはインスリン受容体があって、インスリンはブドウ糖の取り入れではなく、記憶や学習、摂食行動やエネルギー代謝、ニューロン新生など脳の正常な機能に関与していると考えられています。インスリンは神経伝達物質(アセチルコリンやノルエピネフリン)のレベルを上げ、海馬のブドウ糖代謝を調節し、神経細胞の活性を高めて記憶を最良に保ちます。

脳には血液脳関門というバリアーがあって、血液から神経細胞内への物質の移行は自由ではなく選択的に行われます。こうして脳細胞を有毒物質から守っているわけですが、インスリンのようなタンパク質は自由には入れず、必要なだけ輸送されるようになっています。

肥満などでインスリン作用を阻害するTNF-αなどのサイトカインが増えると、膵臓のベータ細胞はインスリンを増産してインスリンの作用低下をカバーしようとしますが、その結果として血液中のインスリン濃度が増加します。

GSK3のところで、ホルモンが導くそのホルモンの作用阻害のことを書きましたが、血中のホルモン濃度が上昇すると、そのホルモンの受容体の数を減らして過剰な信号をカットしてからだを守る仕組み、ダウンレギュレーションを体は備えています。このようにしてメタボや、2型糖尿病の初期は高血糖/高インスリン血症の悪循環が始まります。つまりインスリン抵抗性です。

高インスリン血症で逆に脳のインスリン受容体が減少すれば、脳のインスリンが低下してインスリンとアルツハイマー病の元凶、アミロイドβとの相互干渉のバランスが崩れます。実際のところ、アルツハイマー病治療のためになんとか脳にインスリンを送り込もうとしている研究があるのです。

脳のインスリン濃度を上げようとしてインスリンを注射しても、血液脳関門のために脳内に到達しないので、鼻の奥にある嗅球という大脳辺縁系の神経にじかにインスリンをスプレーして脳の中枢に届ける試験が行われています。

さて、私たちが出来ることは血糖値を安定させて、なによりもインスリンの作用をよく保つことですね。

アルツハイマー病の研究から、「ためしてガッテン」で取り上げた悪玉アミロイドβを分解する「インスリン分解酵素」を増やす(!)食品なども次の記事で紹介しましょう。怪しい話題ですが、由緒正しいUCLAのアルツハイマー病の研究チームが、NIH(米・国立保健研究所)の支援を受けて行った研究ですから、楽しみに。

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