文章:平野 秀昭(All About「関西の住宅事情」旧ガイド)
旧居留地といえば、大丸百貨店を中心とした神戸元町エリアを思い出します。神戸で生まれ育った私は、幼い頃に母に連れられて大丸百貨店に行ったものでした。百貨店の屋上にある小さな遊園地で観覧車に乗り、大食堂で日の丸の旗の立ったお子様ランチを食べる、それが私の大きな楽しみだったのです。そして、歩道に等間隔で整然と並んだ街灯を見ながら母に手をひいてもらい歩いたことも。その頃、神戸の街といえば、雑多で華やかな「新開地」と、お洒落で上品な「元町旧居留地」。特に「元町旧居留地」には私たち一般庶民にとって、憧れのモダンでハイソな空間がありました。
そう、多くの神戸の人たちがそうであるように、私にとっても「元町旧居留地」は特別な街なのです。
居留地とは日本が開国となった時期に、条約を結んだ外国人のための居住と商業・貿易のために日本政府が貸し与えた特別区です。そこは、外国文化がいち早く入り、近代化が進められただけでなく、日本文化との融合がおこり、独特のハイカラ文化が形成されていったエリアでもあったのです。
日本で最初に映画が上映されたのも、コーヒーが飲める喫茶店ができたのも、ジャズの演奏会が初めて行われたのも神戸。ファッション関連企業も多く、フレンチでもイタリアンでもない昔ながらの洋食屋さんが、あちらこちらで見受けられるのも、神戸ならではなのかも?
その元町エリアは、新興の三宮エリアとはまた違った雰囲気で、大丸百貨店を中心とする旧居留地プロジェクトが発足し、居留地時代の近代洋風建築をそのまま利用したカフェやブティックが軒を占めるようになると、すっかり「旧居留地エリア」としてのブランドを確立させています。