強いヨーロッパの馬たちが恐れる日本馬の挑戦
「世界一決定戦」とはいえ、実は2011年までに凱旋門賞を勝ったのはヨーロッパ所属の馬だけ。それほどヨーロッパの馬はレベルが高く、日本からも同じく2011年までに11頭が挑戦しましたが、勝利には至っていません。しかし、その11頭の中に、世界一まであとわずかに迫った日本馬が2頭います。1頭目は、1999年の凱旋門賞に挑戦したエルコンドルパサーという馬。
日本馬が凱旋門賞に挑戦する場合、その多くはレースの1~2カ月前にフランスへ渡って本番に備えるのですが、エルコンドルパサーの場合は異例。なんと5月にはすでにフランスへ渡り、10月の凱旋門賞へ向けたプランをスタートさせたのです。
人間よりもデリケートな馬にとって海外遠征はとても難しいイベント。環境の変化で実力を出せないケースが今までに数多くありました。そこで陣営は、長期滞在によりエルコンドルパサーを環境に慣れさせ、万全の態勢で挑もうと考えたのです。
エルコンドルパサーは凱旋門賞までにフランスで3レースを戦い、ビッグレースを含む2勝(2着1回)という素晴らしい成績。現地でもすっかりスターになると本番では優勝候補に挙げられ、ゴール直前まで先頭を死守し続けたのですが、最後の最後にフランスのモンジューという馬に抜かれて2着に敗れてしまいました。当時、私はエルコンドルパサーのフランスでの戦いを、日本のサッカー選手がヨーロッパのクラブチームに移籍したような感覚で見ていた記憶があります。
もう1頭は、2010年の凱旋門賞に挑戦したナカヤマフェスタという馬。
ナカヤマフェスタの場合は、なんと1着の馬にアタマの分だけ遅れての2着。こちらはレース前の評価がそれほど高くなく、テレビを見ている日本のファンも驚くほどの大健闘だったのですが、実はナカヤマフェスタに騎乗していたジョッキーや管理したスタッフはエルコンドルパサーの時と同じ。凱旋門賞を知り尽くした陣営が生んだ激走でした。
ここまで読むと、日本馬が凱旋門賞を勝つのはそう難しいことではないと思う人もいるかもしれません。でもそれは違います。2着に入った2頭以外では、日本で最強クラスだったほとんどの馬が10着以下の惨敗を喫しましたし、何より私は2着になった2回のレースにこそ「世界の壁」を痛感しました。
というのも、凱旋門賞の最後の最後、ゴールの瞬間にヨーロッパの馬たちが見せる粘りや意地がすごいんです。エルコンドルパサーの時もナカヤマフェスタの時も、私は本気で勝利を確信しました。でも、「凱旋門賞のタイトルは譲らない」とでも言うかのような迫力で、ゴールの瞬間に日本馬をねじ伏せる。まるで格闘アニメの怪物みたいに、何度も何度も甦ってくる。きわどい接戦だったのに、私は「やっぱりヨーロッパの馬とは差があるな」と嘆いてしまいました。そういう強さを、ヨーロッパの馬たちは凱旋門賞のゴール前で見せてくるのです。
しかし、それでこそ世界最高峰のレース。最後の攻防を見ているだけで、世界一の戦いだと感じられるのが凱旋門賞なのです。いつかあの舞台で、日本の馬が先頭でゴールする瞬間は訪れるのでしょうか。ぜひとも期待したいところです。
【関連サイト】
JRAレーシングビュアー「2012凱旋門賞特集」
JRA50周年記念サイト「エルコンドルパサー」
netkeiba.com 競走馬データ「ナカヤマフェスタ」