建築家・設計事務所/建築家住宅の実例

都心の住宅は“へそ”のある家がいい! 井上揺子&小高由紀子住(2ページ目)

家を建て直すとき、好きな窓からの風景を残したいと思うのは誰しも同じ。井上揺子さん設計の大岡山の家は、公園のケヤキが見える大きな開口部が全体の“へそ”になっています。一方、ビルに囲まれた都心にある小高由紀子さん設計の家では、外の風景を遮断した“井戸”のような空間を内部につくり、それを家全体の“へそ”にしていました。

執筆者:坂本 徹也

同じように“へそ”を持った家をもう一軒見つけました。

こちらは小高由紀子さん設計の新富の家です。中央区新富という都心中の都心に建てられたこの家は、さる和食屋のご主人の住居とか。なるほど、それじゃあ築地にも近い新富町というのは便利でしょうね。

まわりには古い店舗兼住居もありますが、この家を囲むのは純粋に事務所ビルばかり。そんな中でコンクリート打ちっ放しの「新富の家」は、一見お洒落な会席料理のお店のようにも見えます。玄関を開けて一歩玄関に足を踏み入れると、黒御影石を敷き詰めた広い玄関、木の香りのする広い階段、暗めの間接照明……う~ん、やっぱりここは料亭か。

構造としては、1階が夫婦の寝室、2階はリビングとバスルーム、3階は子ども部屋と客室という単純な構成なのですが、この家の一番の特徴は、やはりリビングと浴室との間に設けられた坪庭の存在でしょう。

「ここは場所的には日当たりも悪く、まわりの風景も取り込めない。だけど、どこかに七輪でサンマを焼く空間があるといいなと言うご主人の要望で、坪庭をつくりました。浴室にも面しているので、外を見ながらお風呂というゼイタクな時間も持てます」

とは小高さんの弁。とはいえ、坪庭の向こうはふつうの会社の事務所なため、スリットの入った板を打って視線は完全にシャットアウト。つまり、2階から3階を抜けてルーフガーデンに達するこの坪庭は、まさに都心の井戸なのです。だけど、この井戸の底のなんと居心地のいいこと! 考えてみれば、仕事で出ている日中よりも圧倒的に過ごす時間が長いのは夜。井戸の底から、四角く切り取られた都心の夜空を見上げながら、お風呂に入る、くつろぐ。そんなひとときのための家があってもいいのかもしれませんね。きっとこのあたりなら、夜は奥深い山中のように静かなのでしょうから。

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