「大岡山の家」には“へそ”がある

井上揺子さん設計の大岡山の家は、北側の道路を隔てた場所に小さな児童公園があります。施主の一人であるお母さんは、この公園にあるケヤキが台所から見える風景が大のお気に入りでした。長年住みなれた家の建て直しを依頼された井上さんが最初に思ったのは、「このケヤキを一部として取り込むような家にしよう」ということでした。

そして出来上がった家を訪問してみて、最初に目に入るのは、やはり2階のリビングと娘さんの寝室とをつなぐ広い廊下(というか踊り場のようなスペース)。南北両面がガラスの窓という開放的なこのスペースは、音楽が趣味という娘さんがグランドピアノを置いて演奏できるようにとつくられたそうですが、北面の窓いっぱいに大きなケヤキの緑が飛び込んできます。そして、南面は赤く塗られた木製のスカイガーデン。ちょっとしたゼイタクな空間がぽっと現れた感じがします。

「将来このスカイガーデンに植物を育てれば、南北両面を緑に囲まれてピアノを楽しむ空間が出来上がる。それって、ちょっといいと思いません?」

と井上さん。家の“へそ”というか、この空間のために家のそれぞれのパーツが再構成されたようにも思えるこの家ですが、自分だけの家だからこそそんな発想が許されるというところも建築のおもしろさなのかもしれません。