キャラクターの箱からこぼれ落ちるもの
――「マーガレットは植える」から、そこまでイメージが広がっていくのがすごい。やっぱり、言葉で冒険している感じです。
松田 「もうすぐ結婚する女」も、〈もうすぐ結婚する女を見に行った〉という一行が急に頭に浮かんで、そこから始めたんです。「もうすぐ結婚する女」がたくさんこの世界にいて、「私」と人生のいろんなタイミングで出会うというイメージで書いていきました。そして「私」とは誰なのかという問いと。
『スタッキング可能』と一緒で、人という存在はひとりであって全体であり、全体でありながらもひとりである。「もうすぐ結婚する女」もひとりであって全体であってだけどやっぱりひとりだという。みんな同じくしているところと、どうしたってちがうところがある、みたいな発想です。
――わたしは全体的に読んでいて、アンチ「キャラクター小説」っぽいところがあるなと思ったんですよ。
松田 ああ~。特別意識していたわけではありませんけど、結果的にそういう作品が集まってしまったかもしれません。わたしは人の目の前に、簡単にかたちを決められる便利な箱が並んでいるイメージがあって。「はいはいこの人はオタク」「はいはいこの人は天然ね」という感じで、いったん箱に入れたら「もうこれでいいです!」みたいになってしまう。そんな簡単なわけがないのに。だからこの本では、キャラクターを逆にはっきりさせたくなかったというのはあります。
――はっきりしないのがほんとうなんだけど、キャラクターって便利なので、実生活でもつい使ってしまうんですよね。
松田 キャラクターを決めたときに、こぼれ落ちるものがいっぱいある気がして。固定観念をちょっとずつこそげ落としたいという気持ちもあって、こういう感じになりました。
――次はどんな作品を書かれる予定でしょうか。
松田 日本の英語教育の宗教性について書こうとしています。いろんな方法を考えていて、自分でもどんなものができあがるのか、まだわかりません(笑)。
「早稲田文学」のフリーペーパー「WB」vol.27_2013_winter に松田青子さんの「写真はイメージです」が掲載されています。詳細はhttp://www.bungaku.net/wasebun/をどうぞ!