100年店ランチ/東京の100年店ランチ

魚力(魚定食/渋谷/創業明治中期)

ご飯、味噌汁、ひじきがおわかり自由、貴重な渋谷エリアの100年店……今回は魚屋を源とする定食店「魚力」をご案内します。

菅野 夕霧

執筆者:菅野 夕霧

100年店ランチガイド

NHKに近い渋谷・神山町に鮮魚店兼業の定食店「魚力」

同店店頭。向かいは白洋舎の本社

同店店頭。向かいには白洋舎の本社ビルが存在

渋谷駅から文化村通りを進むと、東急本店で松濤方面と神山方面の2つの道に分かれます。井の頭通りとほぼ平行に走る神山方面へと延びる道をしばらく進むと、左手に「魚力(うおりき)」が現れます。渋谷駅からだと10分くらいは歩くでしょうか。 “この店が本当に100年?”と思ってしまいそうになるような、街の魚屋さん、街の定食屋さんといった風情です。

お昼時には外にランチメニューの看板が出ていますが、外観は一見して鮮魚店。店舗に面している道はバス通りですが、一方通行で細いこともあり、油断して歩いていると見過ごしてしまうかも知れません。NHKから近い立地で、関係者らしき人たちも多く見受けられます。

100年以上の歴史を有する店、その分布は、ニアリーイコール100年前の街の隆盛を表しています。こちらで紹介している「100年店」については、浅草、上野、神田、日本橋などが多いのですが、今をときめく渋谷、青山、代官山、中目黒などはなかなかお店がありません。そういった意味でも「魚力」は貴重な一店と言えそうです。


創業は明治時代中期

魚力の歴史は、初代が明治中期に大森海岸で開いた魚屋がそのスタートです。その後、青山に場所を移し、戦後に現在の渋谷に店を構え、今に至っています。

注文は店内に掲示された札を取る

注文は店内に掲示された札を取る

魚屋に加え、定食(夜は居酒屋)を出す業態へと変化したのは1985年のこと。新鮮な魚に対する目利きという強みを活かし、鮮魚店が店舗の一角で魚料理の提供を始める店は、私が知る範囲でも結構ありますが、魚力もそのスタイルに該当しています。そんな魚力の創業は明治中期、西暦で言うと1890年前後です。この頃、どんな空気が世の中を覆っていたのでしょう……。

1899年(明治22年)に大日本帝国憲法の発布。翌1890年(明治23年)には、初の総選挙となる第一回衆議院議員総選挙が行われています。国として非常に重要な数年でしょうか。

選挙は北海道と沖縄を除く257の選挙区で定数は300人。選挙権は25歳以上の男子で一定の納税が条件となっていましたが、投票率は93.9%という、今では考えられない数値、関心の高さです。

同年には帝国議会、つまり初の国会が開かれます。名実ともに近代国家へと歩み始めた史実が数多く残る明治中期。そんな時代背景の中、魚力もその歩みを始めています。

では、明治中期の魚屋を源とする定食店へと参りましょう
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