(米)バージニア大学で1型糖尿病者の運転リスク判断とその改善の共生を行なっているサイトです

低血糖リカバリーは「15ルール」です。ブドウ糖15gで15分待って、もう一度血糖測定をします。
DiabetesDriving.com

自動車の運転に影響を及ぼす数多くの病気や障害が社会問題になっています。昨今のような痛ましい事故が続くと、免許制度の見直しや危険運転過失致死傷罪の適用など、刑罰の厳格化を求める声が高まります。

糖尿病による低血糖症も例外ではありません。せっかく2002年に道路交通法が改正されて、疾病をもつ人にも運転免許取得への道が開けたのですから、これを後戻りさせない努力と糖尿病患者自身の安全運転を、米国の例を参考にしながら解説します。

横浜の高3死亡ひき逃げ 低血糖で意識障害 無罪

これは京都の祇園で大事件が起きる3週間前の日経新聞(2012年3月22日)の見出しです。2009年9月1日夜に横浜市で自転車の高校生を軽自動車ではねて逃げたとして、道交法違反(ひき逃げ)の罪に問われた会社員の男性被告(46)の判決で、横浜地裁は21日、「持病の糖尿病の治療による低血糖で意識障害に陥っていた」として責任能力を認めず無罪(求刑懲役1年)を言い渡したものです。少年は同月20日に死亡しました。

この見出しと本文を読めば、「残念で悔しい。これでは息子が浮ばれない」と話す父親につい感情移入をしてしまいますが、この事件は少し妙なところがありまして、そもそも、この会社員は自動車運転過失致死容疑については嫌疑不十分で最初から起訴されていないのです。

フロントガラスの大部分が割れていたのに、横浜地検はこの会社員を刑法第211条第2項(自動車運転過失致死傷罪)で起訴することが出来ませんでした。同条項の「自動車の運転上必要な注意を怠った」ことを証明できないと判断したのでしょう。事故後も走行していたことから、逃げたことを問う道路交通法違反(第72条第1項ひき逃げ)の罪だけで起訴しました。いずれにしても新聞報道では、その詳しいいきさつは分かりません。

誰でも、意識障害(低血糖)の危険があるインスリン治療の糖尿病者は、車に乗る前にも運転中も十分に注意する義務があると思いますから、その過失を問えないことに憤りを感じる読者は免許制度に怒りをぶつけます。

この会社員はインスリン治療の糖尿病患者で、たまたまジム帰りの途中で低血糖になってしまいました。祇園の事件で死亡した運転手もてんかんと診断されていたので、両事件とも病気が表面に出てしまいました。

道路交通法は「病気」ではなく、糖尿病者の個々の運転適性が判断されるべきである(ADA)

これが米国糖尿病協会(ADA)の主張です。日本でも2002年の改正道交法と施行令(政令)でこの趣旨が生かされました。日本てんかん学会も全く同じ意見を発表しています。病気に対する偏見だけはマスコミもあおらないように自重してもらいたいものです。

2011年に米国で発表された大型商用車の安全性と糖尿病との関連を分析した15論文のメタアナリシス(ECRI)では、糖尿病があると、健常者に比べて若干(12~19%)の相対リスクが高まる結果が出ました。ただし、相関しないという論文もありますから結果は必ずしも統一されていません。

危険な運転と言えば誰しも酒酔い運転を思い浮べますが、米国の統計では酒を飲まなくても日曜日の深夜1時に車を運転することは、明るい午前11時に運転することに比べ142倍も事故のリスクが高くなります。関越道で起きた深夜の高速バスの事故は、まだ記憶に新しいところです。

また、田舎のハイウェイは都心のルールを守る安全なハイウェイよりも9.2倍も危険で、16歳の男性の運転する車は35~45歳女性の車に比べて42倍も衝突事故を起こします。そして、大型の重量車と軽い小さな車が衝突すると、小型車の乗員の死亡リスクは大型車に比べて20倍も高くなります。

高齢社会の日本では、認知症による高速道路逆走も、それほど驚愕するニュースではなくなりつつあります。

これらの日常的な事故が社会的に「やむを得ない事故」と許容されるのなら、年に数回あるかないかの糖尿病の低血糖による事故をもって、インスリン治療が欠かせない糖尿病者の免許取得厳格化を持ち出すのは差別としか言いようがありません。

病気による交通事故はリスクを見分けることで防ぐことが出来る

2002年に発表された国際的な大きな研究によると、1型糖尿病者の1/2、2型糖尿病者の3/4は自動車運転のガイドラインについて担当医と話し合ったことがありませんでした。自動車運転は患者だけの責任ではないのです。

最近のスコットランドの研究でも、インスリン治療の運転者に、車に乗る前には必ず血糖測定するように指導していた医師は62%に過ぎず、13%の医師は血糖値が72mg/dl(4mmol/L)未満になっても運転に差し支えるとは思わず、8%は低血糖による注意力消失が「運転禁忌」にあたることを知りませんでした。

低血糖の症状は個人差が大きく、米国ではバージニア大学の専門医によって事故のリスクが高い人を見分けるサイト(DiabetesDriving.com)も公開されています。糖尿病の「型」や治療法に関わらず、直近にシビアな(他者の介護が必要な)低血糖を起こした経験の有無が、明らかに低血糖交通事故と関連がありました。こういう無自覚性低血糖症は日常の血糖値を高めに保つことでリセットできることは以前の記事で説明しました。

自分で出来る安全確認チェックポイント

  • 乗る前に必ず血糖測定を行う
  • 即効性のブドウ糖を手近に用意しておく
  • 神経が集中できなくなったり、物がよく見えなくなったら、つまり、低血糖症状を感じたら、直ちに安全を確保し、停車して治療をする
  • 血糖値が降下傾向なら、まだ正常レンジ内でも補食を取る
  • 長距離ドライブなら、前もって休憩場所を決めておく
  • 長距離ドライブの時は、1~2時間置きに血糖測定を行う。車の振動や疲れが、いつもの低血糖の自覚症状を隠してしまうことがある
  • 長距離ドライブでは食べ物を摂る機会を見つけることが難しいことがある。ヘルシーなランチを用意しておく
さて、ドライブの途中で車が運転者の低血糖を感知して警告を発してくれるのはどうでしょう? まるで近未来のSFみたいですが、実はもう、そういう車(プロトタイプ)があるのです。Ford's Sync systemのテクノロジーですが、発売は未定とのこと。メドトロニックの連続血糖モニタリングシステム(CGMS)が電波で血糖値をレシーバーに送るので、それをキャッチして判断するのです。
日本の自動車メーカーも負けないでくださいね!

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