糖尿病/その他の糖尿病の合併症

糖尿病の病歴と比例? エスカレートする低血糖

1型糖尿病でも2型糖尿病でも、病歴が長くなるとインスリンに拮抗(きっこう)して血糖を上げるホルモン分泌が不完全になります。これが低血糖からの回復を気付かないうちに妨げてしまうのです。詳しく解説します。

執筆者:河合 勝幸

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1型糖尿病でも2型糖尿病でも、病歴が長くなるとインスリンに拮抗(きっこう)し、血糖を上げるホルモンの分泌が不完全になります。これが低血糖からの回復を気付かないうちに妨げてしまいます。

1型・2型の低血糖頻度の違い

1型糖尿病の場合、程度や頻度には個人差がありますが、低血糖は必ず起こります。SU剤やインスリン治療の2型糖尿病の場合も、比較的マイルドですが低血糖は起こります。

欧米のデータでは、標準的なインスリン治療の1型糖尿病者の10%は少なくとも年1回は「シビアな低血糖」を起こしています。DCCTの強化インスリン療法ではそれが30%と3倍になりました。

これに対し、2型糖尿病者のインスリン治療では2.5%、SU剤(スルホニル尿素剤)では0.5%です。

シビアな低血糖の頻度と原因

「シビアな低血糖」とは第三者の介護が必要な低血糖を指します。インスリンを使っていれば、軽度の低血糖アラームは日常茶飯事ですし、エピネフリン反応を実感する症状だって、1型なら週に1~2回はあるでしょう。でも、介護が必要な低血糖となると話は別です。

低血糖の原因にはいろいろありますが、つまるところ、患者教育不足あるいは医療サイドの優良すぎる(または、あいまいな)血糖管理目標によるインスリンの過剰と言えます。もちろん、患者自身の理解不足、注意不足が大半ですが……。

糖尿病治療中に起きる低血糖シンドローム

1型糖尿病の子どもの場合、血糖値が~68mg/dlぐらいでエピネフリン(アドレナリン)反応が出ますが、成人の場合、はっきりとした症状になるのは~58mg/dlぐらいです。この閾値(いきち)は変化します。

健常者がどのような仕組みで低血糖を防いでいるかについては、前回記事「低血糖の症状・兆候」で解説しましたので、ここでは省略します。私たちに大問題なのは、低血糖を防止するインスリン拮抗ホルモン(主にグルカゴンとエピネフリン)が糖尿病治療中に少しずつ減少してしまうことです。これが進むと、低血糖になっても自律的にリカバーができなくなり、低血糖症状に気づくのが遅れてしまうのです。

糖尿病歴が長くなれば長くなる程インスリン投与量が増え、その分、低血糖のリスクも増えます。インスリンを皮下注射すると、作用機序に従って受動的に体に吸収されます。

健常者では血糖値が下がれば、インスリンレベルもそれに応じて下がりますが、外因性のインスリンは血糖が下がってもそのままです。

血糖値が低下すれば、体は膵島のアルファ細胞からグルカゴンを分泌して、それが肝臓からブドウ糖を放出させますが、1型糖尿病では発症後1~5年の間にこのグルカゴン分泌が鈍ってきます。体は鈍化したグルカゴンの代償としてエピネフリンを増やして血糖を上げますが、低血糖のリカバリーは遅れます。

1型発症後15~30年と長い年月になりますと、グルカゴンもエピネフリンも重篤に障害されています。血糖値も回復せず、低血糖症状も出ません。当然、低血糖の自律的なリカバリーは望めません。この人が強化インスリン療法を行えばどうなるでしょう? 車を運転中だとしたら、ぞっとしますね。

グルカゴン分泌を制御しているのは、膵島を流れる動脈の血糖値、中枢神経からの指令、同じ膵島内のベータ細胞との情報交換などが考えられますが、この場合はベータ細胞が破壊されて交信が途絶されたから、という説が有力です。

以上の変化はインスリン治療が必要な2型糖尿病でもマイルドではあるが起きていて、同じようにリカバリーは障害されていると考えられています。

無自覚性低血糖

血糖値が危険な値まで下がっているのに感知できない人がいます。こうなると突然、脳の糖欠乏症が現れますから、場合によっては昏睡まで一直線です。

原因として自律神経障害が疑われていますが、必ずしも自律神経障害があるとは限りません。この症状は罹病年数とは比例せず、元に戻すことも可能なことが多いので、次の書きかえられた閾値説が有力です。

書き換えられた低血糖の閾(いき)値

「閾(いき)」とは「しきい」のことです。閾値に定められている血糖値を超えて下がると、低血糖症状が出るという値です。

実はそれが繰り返される低血糖によって変化することが証明されています。一回の低血糖状態を2時間維持すると、糖尿病者であろうが健常者であろうが、次の低血糖症状が出るのは、もっと低い血糖値になります。

ですから、強化インスリン療法で低血糖を日常的に経験していると、だんだん低血糖症状が現れる血糖値が下がっていきます。この閾値が変わった人は、正常な低血糖症状を示す人に比べて6倍も「シビアな低血糖」を起こしやすくなるそうです。

血糖値を整理しますと、血糖値が65~68mg/dlになると、インスリン拮抗ホルモンのグルカゴンやエピネフリンが分泌されます。発汗などの低血糖による自律神経症状が進むのが58mg/dlぐらいで、脳の認識能力低下が始まる54mg/dl前後の、ほんの直前なのです。

脳はブドウ糖のみをエネルギー源にしていますから、その欠乏は機能にダメージを与えます。度重なる低血糖で、エピネフリン分泌や症状が出る閾値が、脳の認知力低下の始まる50mg/dl半ばをさらに下回ったら、低血糖に気づく前に神経組織糖欠乏症が始まります。つまり、無自覚性低血糖です。

なぜ低血糖の悪循環がエスカレートするかと言うと、神経細胞(ニューロン)は低血糖にさらされるとブドウ糖輸送体を増やして耐性を得ているからと考えられています。これを正常に戻すには低血糖を起こさないことです。

注意深く2~3週間、低血糖を避ければ低血糖症状つまりアラームが回復します。重い低血糖の影響を受けていたエピネフリンのベータ作用も低血糖無しで過ごせば数ヵ月で回復するとされています。

危険な低血糖を予防する方法が見えてきました。一安心ですね。

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