為替リスクが消えるワケはインフレ
私たちが怖れる円高は、逆にいえばドル安です。ドル安になる理由にもいろいろありますが、本質的には物価上昇の大きい国の通貨は下がります。日本ではデフレ、アメリカではインフレだから米ドルが安くなります。海外の他の国でもこの関係は変わりません。そして、私たちの投資対象の国で起きる<物価上昇→通貨安→株高>というサイクルの中で、為替レートは株価に影響力を与えます。
このことを、さらに詳しく解説した本があります。中丸友一郎さんが書かれた「アメリカ株長期投資入門」(ダイヤモンド社)です。その中の一部を引用して、ご紹介します。
「日本の投資家のアメリカ株の実質的な投資リターンは、アメリカ株への投資リターン(為替差益を含む)から、日本の物価上昇(日本のインフレ率)を控除することで
求められます」(これを式にすると以下の通り)。
日本の投資家のアメリカ株投資の実質リターン=アメリカ株名目投資リターン + ドルの対円為替損益 ー 日本のインフレ率
この数式を整理していきます。
アメリカ株名目投資リターン + ドルの対円為替損益 ー 日本のインフレ率
= アメリカ株実質投資リターン + アメリカのインフレ率 + ドルの対円為替損益 ー 日本のインフレ率
日本の投資家が得られるアメリカ株の実質的な投資リターンは、アメリカ株の実質的な投資リターンに「アメリカのインフレ率、ドルの対円為替損益、日本のインフレ率」を足したものなのです。
為替リスクはインフレで相殺される
アメリカのインフレ率、ドルの対円為替損益、日本のインフレ率をすべて足すとゼロになるというメカニズムを、著書から原文のまま引用します。『ドル円レートは、既述のように、長期では日米のインフレ率の格差を相殺するように動く傾向があります。アメリカのインフレ率が日本のそれよりも大きい場合、アメリカの輸出品が価格競争力を低下させる分、ドルが円に対して下落する必要があるからです。例えば、ここで日本のインフレ率をほぼゼロと仮定しましょう。このとき、アメリカのインフレ率2%分ドルが下落し、日本円が上昇することになります。
つまり、最後の式にある「ドルの対円皮損益+アメリカのインフレ率ー日本のインフレ率」は、長期的にみると、日米両国間のインフレ率を相殺するようにドル円レートが動くため、ゼロになると予想することができるのです。』
結論:日本の投資家のアメリカ株投資の実質リターン=アメリカ株実質投資リターン
為替レートなど忘れてしまおう
したがって、アメリカ株の実質リターンと日本の投資家が得られるアメリカ株投資の実質リターンは、同じだということです。尾藤さんも中丸さんも、結論として同じことを言っていることにご理解いただけましたか?
つまり、世界に投資する長期投資家は為替レートのことをすべて忘れてかまわないということなのです。