歩く。歩く。ひたすら歩く。(c)2010 KAWAI Katsuyuki
運動が血糖値に及ぼす影響は少なからずトリッキーなのです。
もちろん、誰でも健康のために運動がとても大切なことは知っています。でも、糖尿病のある人は一時的に運動が血糖を高めることもあるのです。
運動をするには血糖が高すぎる、あるいは低すぎるときをどうやって知ればよいのでしょうか?
運動をするのに一番いい時間帯はいつでしょうか?
ときどき経験する煩わしい運動後の高血糖のことなども理解しておきましょう。
活動的な糖尿病患者はヘルシーに長生きできる!?
運動生理学者で、1型/2型糖尿病マネージメントにおける運動の役割を研究しているヨーク大学(カナダ)のJ.I.Reddiganらが、ヨーロッパ糖尿病学会の学会誌Diabetologia(2012年3月号)に、運動と血糖コントロール(HbA1c)が、糖尿病患者の心臓死や全ての死因に及ぼす影響を解析した論文を発表しています。統計はアメリカ全国栄養調査IIIです。それによると、活動的な人はA1cのいかんに関わらず、A1cが正常範囲の不活発な人に比べてすべての死因のリスクを高めなかったのです。
つまり、A1cが目標よりも少しぐらい悪くても、活動的な糖尿病患者はA1cや体重が正常な不活発な糖尿病患者よりも心臓死が少なくて、ヘルシーに長生きできたということです。
そして、糖尿病のタイプに関係なく、運動にはエアロビック(心肺機能)と筋トレの2種類を組み合せるように勧めています。糖尿病があっても目や腎臓、神経の合併症がなければ、おおむね、これらのエクササイズは安全です。もちろん、担当医のアドバイスを受けてからですが。
運動療法について知っておきたいこと
運動をすれば体は余分なエネルギーを必要とします。筋肉がクリーンで高エネルギー物質であるブドウ糖を使います。道路を駆けて渡るような急な短時間の強い運動では、筋肉や肝臓に蓄えてあるブドウ糖が消費されますが、適度な強さの運動を続けると筋肉は平常時の20倍ものブドウ糖を取り込んで、消費します。だから血糖値が下がるのです。
ところが、血液中にインスリンが必要な分がないと(気付かなくても血糖値が250~300mg/dlになっていれば)、必要に応じて肝臓からリリースされたブドウ糖を筋肉が取り込めずに、運動しても血糖値が上昇してしまいます。
どんな時間帯がいいか?
糖尿病のタイプによって、運動に適した時間が異なるようです。1型糖尿病の人は、体の中のインスリン濃度が比較的低い早朝の運動を好む傾向があります。低血糖が起らないように、朝のインスリン注射の前、つまり朝食前の時間帯です。
もちろん、これにも個人差があって、モーニングエクササイズでは血糖が上がるが、夕方は大丈夫という人もいます。
1型糖尿病では運動の直後にはしばしば血糖が上昇するので、しばらく待ってからの再検査で自分のパターンを理解することが必要です。
逆に2型糖尿病では食後の運動が食後高血糖抑制にとても効果があります。ただし、2型糖尿病歴が長くてすでにインスリン治療の人は、調子に乗って過度の運動をすれば、当然ながら低血糖の恐れがでてきます。
大事なことは、時間帯よりも自分に合った適切な運動を規則的に行うことだと思います。
とにかく血糖値を調べよう
もし、あなたがとても低血糖を起こしやすいタイプなら、運動の2時間前から30分おきに血糖測定をして、血糖値が上昇中か下降中かの判断をすることが安全につながります。また、運動中も30分ごとに血糖値をチェックすれば安心です。大変なことですが、血糖の傾向と対策のためには欠かせません。
特に1型糖尿病の人は運動終了時に血糖が急上昇してインスリンの調整が必要になることがあります。このことは次回に改めて解説しましょう。
運動の時間とメニューを計画する
アメリカ糖尿病協会やスポーツ医科大学は、一週間に150分間のエアロビックエクササイズを勧めています。特に大きな筋肉を使うウォーキング、水泳、ボート漕ぎ、クロスカントリー・スキーなどです。大きな筋肉を使えばエネルギーを消費して血糖が下がります。また、毎週3回の筋トレを加えることで体の活動量が完全になります。
自分の体重を利用すれば関節を痛めませんし、慣れればウエイトトレーニングも筋力アップに最適です。骨格筋のボリュームが増せば基礎代謝量もアップします。骨格筋を鍛えるにはウエートトレーニングが必要です。ただし、エアロビは筋力アップにはなりません。
(つづく)
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