オーナーの「まだ新しい」は、入居者の「もう古い」
オーナーさん向けの雑誌である『オーナーズ・スタイル』と、不動産情報サービスのアットホーム株式会社が、オーナーさんと入居者の両方に「築10年の物件」をどう思うか調査したことがあります。それによると、およそ25%のオーナーさんが「築10年ならまだ新しい」と回答しました。一方で入居者の側で「新しい」と答えたのは、たった5%しかいなかったのです。この差は、一つには借りる立場と貸す立場の違いから出てきたものかもしれません。
しかしそれ以外にもオーナーさんと入居者の間には大きな意識の差が存在します。それは世代の違いによるギャップです。
公益社団法人・東京共同住宅協会の調査では、オーナーさんの平均年齢は68歳です。入居者の平均年齢についてははっきりしたデータがありませんが、実際に部屋を借りるのは学生、独身のサラリーマン、結婚した若い夫婦、小さな子供のいる家族など、20~30歳代が中心です。オーナーさんの平均年齢と比べると、親子かそれ以上に世代が違うことがわかります。
世代が違い、育ってきた時代背景が違うと、どうしても物事に対する感覚も違ってきます。たとえばモノが十分にない時代に育った高齢者の方には「もったいない」という感覚が強くあります。モノは大切に使うべきで、まだ使えるモノを捨ててしまうのはもったいないというのが高齢者世代の発想です。しかし賃貸経営においては、この発想が大きな障害となる場合が少なくありません。
オーナーさんが「まだまだ使える」と思っていても、若い入居者から見れば「もう古い」と感じてしまうのです。世代間ギャップを自覚し、意識して若い人たちのニーズに敏感になり、対応していかなくてはなりません。
日本人は賃貸住宅にも常に新品同様を求める
新しい内装・設備は人気があります
しかし日本人は靴は必ず脱いで室内に上がり、家は次々と新しいものに建て替え、真新しさを喜びます。特に住むところを変えて新しい生活のスタートを切るというときには、住環境にも新しさを求めるものです。ですから新築の物件にはすぐに入居希望者が集まりますし、築年数の経ったマンションであっても、壁や床は完全にクリーニングされ、水回りなどは新品同様にピカピカでなくては見向きもされないのです。
最近の若い人は、前の住人が使っていた形跡や生活感が残っていることを特に嫌がります。水道の蛇口のサビ、便器の落ちない汚れ、浴槽の落ちない水アカなどが残っていると、確実に入居希望者を遠ざけ、空室の原因となってしまいます。壁紙や水回りなど入居者が特に気にするポイントについては「もったいない」と思わずに、まだ使えるものであっても積極的に新しいものに取り替えるべきなのです。何もかも新品にする必要はありませんが、リフォームシートなどを使ってリニューアルしたり、ときには費用を投じて目立つパーツを換える決断が必要です。
「原状回復」への意識にも世代間ギャップ
原状回復の義務についても、高齢のオーナーさんと若い入居者とでは意識に大きな差があります。たとえばウナギやカツ丼などの出前をとったとき、年配の方は必ずきれいに洗って食器を玄関前に出します。誰かに車を借りたら、最後に洗車してガソリンは満タンにし、「ありがとう」という言葉を添えてお返しする。それはこの世代の方にとっては常識といっていいことでしょう。けれども若い人は出前をとっても、食べカスがついたままの状態で食器を返します。「お金を払って買ったのだから、食器などは売り手が洗うのが当然」というのが若い世代の認識なのです。
これは部屋を借りる場合も同様です。年配の方は、後で業者がクリーニングに入るということが分かっていても、出るときはきれいに掃除していきます。ところが若い世代は、「お金を払って借りているのだから、部屋を返した後できれいにするのは貸す側の仕事」という感覚なのです。
お年寄りから見れば「最近の若い者は」と眉をひそめたくなることもあると思いますが、そう感じるということは、世代間ギャップがあるということなのです。
賃貸経営においてはこうした借り手の世代との感覚の違いをあらかじめ織り込んでおかないと、オーナーさんと入居者の双方にストレスが貯まり、空室も埋まらないという結果になります。
入居者の視点で物事を考え、入居者のニーズをしっかりと捉えることが賃貸経営を成功させる基本だといえます。