糖尿病/A1C・血糖値管理・血圧計・血糖測定器

体系的な血糖自己測定(Structured SMBG)の勧め

血糖測定器はどのように使うかを知るだけでは不十分です。何のために使うかを理解しましょう。「How」から「Why」への発想の転換が糖尿病治療の上級クラスへのキーワードです。

執筆者:河合 勝幸

血糖コントロールの悪い2型糖尿病者が、決められた3日間だけ適切なタイミングで自己血糖測定(以下SMBG)を行い、自分でそれを特別な用紙に記入・グラフ化して医師とデータを共有。
そのデータを活用してよりよい治療を受けることができ、一年後でも平均血糖値(HbA1c)を著しく下げることが出来たという論文が発表されました。

一見、なんの変哲もない話のようですが、とてもよく考案された体系的なツールを用いて、医療従事者だけでなく患者自身も血糖管理の問題のありかを認識し、治療に応用できるようになっています。

まず、この論文を簡単に説明して、臨床試験が意図した最も重要な部分である体系的な血糖測定とは何かを紹介しましょう。

体系的なSMBGは血糖コントロールの悪いインスリン治療を受けていない2型糖尿病者のA1Cを著しく低下
[Diabetes Care,2011,2月号]

写真提供:ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社

引用論文で使われた血糖測定器は、このアキュチェック・アビバ・ナノの一つ前のモデルです。
写真提供:ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社

近年、糖尿病の血糖管理は、過去2~3ヵ月の平均血糖値を表わすヘモグロビンA1c(以下A1C)が指標になっていますが、A1Cは糖尿病患者の経験する一日に何回も繰り返す高血糖の高い山と低血糖の深い谷を表してはいません。実は、この高い山、深い谷の繰り返しが血管を傷めるのです。

そこで、体系的なSMBGを3ヵ月に一度の定期診察の直前3日間に連続で行い、その患者のパターンを分析することにしました。なにをするのかと言うと、一日あたり朝昼夕の食前・食後2時間と就寝前の計7ポイントのSMBGを行なって所定の用紙に記入するのです。

試験は全米の34のプライマリケア診療施設に登録された483人の2型糖尿病患者を対象に実施されました。全員がA1C 7.1%(JDS値)以上と血糖コントロールが悪く、まだインスリンを使ってない人たちです。
全員が米国水準よりも強化された治療を受けましたが、それには3ヵ月に1回の通院が含まれ、特に糖尿病の管理、無料の血糖測定器と試験紙の提供、病院でのA1C検査に重点が置かれました。

患者は無作為に2群に分けられ、一方のみに3ヵ月に1回の3日連続の7ポイントSMBGが課せられました。コントロール群は医師の指示に従い通常通りにSMBGを行なって、特別な指導や説明はありませんでした。
体系的SMBGの一次評価はこの2群の12ヵ月後のA1C値の変化です。

この試験が行われた背景を説明すると、インスリン治療の1型・2型糖尿病者ではSMBGが良好な血糖管理に必要かつ有効なものであるのに対し、インスリン治療ではない2型糖尿病者にとって、どのように有効であるかは複数の意見に分かれていました。
なぜなら、SMBGは血糖値を下げる治療行為そのものではなく、あくまでも検査ツールのひとつに過ぎないからです。
それぞれの治験が別の研究デザインで行われば別々の結論になります。そこで、医師と患者が協力して体系的なデータを収集、解釈、正しく活用できるように、包括的でシステマチックなSMBG介入プログラムが開発されました。

NHKの某番組で、一日一回体重計に乗るだけで減量できるダイエットが紹介されて話題になったことがありますが、SMBGをすることでA1Cが下がるのも同じようなことです。
計測したものをどう活かすかで結果が異なります。
SMBGから得た情報は、生活習慣の見直し、改善に有効に使えれば効果が大きいのは分かっていますから、医師や患者が適切に行動できるプロトコルが望まれていました。

SMBGのツール、ACCU-CHEK 360°View(アキュチェック・サンロクマル・ビュー)

ACCU-CHEK 360°view 資料提供:ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社

ACCU-CHEK 360°view
資料提供:ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社

体系的(Structured)とは、秩序だった手順を踏んで処理することを意味し、この場合はロシュ・ダイアグノスティックス社(本社、スイス)が開発したACCU-CHEK 360°Viewという一枚の記録紙に患者が受診前の連続3日間の7ポイントの血糖値を記入することから始まります。
そのまま3日連続のグラフが出来上がるので、危険な低血糖から空腹時高血糖、食後高血糖の順に出現した時間、回数を見て、原因を確認して対策を立てることができます。

血糖値だけでなく食事量もシンプルに「少・普・多」とメモ程度に記入できますし、運動の実施や体調を示す元気度もマークするだけですから、患者の負担はごく軽微です。

これによって患者は食事と運動が血糖値に及ぼす影響力を学習することができますし、医師は最適な薬の選択や処方量を確認し、栄養士も具体的なアドバイスが容易になります。
なによりも医療従事者との会話が増え、血糖の乱高下が減り、血糖値を把握することで不安感もなくなって患者の生活が好転するのは間違いありません。

文頭で紹介した論文でも、体系的SMBGを課せられた患者群のA1Cはコントロール群よりも大きく低下しましたし、一日の変化である食前、食後、就寝前の平均血糖値も下がりました。
理由は分かりませんがSMBGの1ヵ月あたりの一日平均回数も体系的SMBG群の方が少なかったのです。つまり3日連続7ポイントのSMBGは費用増にはなりませんでした。
そして、当然ですが、3ヵ月に1回医師と患者が共同でデータを検討した体系的SMBG群の方が、治療の見直し回数が多かったのです。

さて、このような積極的な治療は糖尿病専門医なら日常のことでしょうが、米国も日本もいずこの国も、大多数の糖尿病治療は地域の一般医(かかりつけ医)が行なっています。
しかし、一般医、家庭医のセッティングは患者の急性の訴えに対応するようになっていて、糖尿病のようにジワジワと悪化する慢性病のニーズには設備もスタッフも最新知識もなかなか応じきれないのはやむを得ません。

ですから、今回紹介した米国の論文が全米のプライマリケア診療施設の患者のみを選んだのには大きな意味があったのです。
その有効性がすでに確認されているACCU-CHEK 360°View血糖測定分析システムを使用して、プライマリケアの家庭医、一般医に糖尿病専門医の明確に定義されたワークフロー・プロトコルを提供し、患者にもSMBGを活用するツール、そのデータを解釈する知識を手にしてもらうことで、血糖コントロールが著しく改善できることが明らかになったのです。

日本では薬事法やSMBGの保険適用の問題もあって、ACCU-CHEK 360°Viewの利用は医師が主導するようになっているようです。360°Viewのシートはもう日本のロシュ・ダイアグノスティックス株式会社によって日本語訳が用意されていますから、血糖コントロールをもう一歩よくしたい人、安定させたい人は担当医に相談してみてください。

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