インスリンペン。手軽で便利、とても正確な注射がほとんど無痛で出来ます。
一時的なインスリン治療とは
インスリンが絶対的に欠乏していて、生命維持のためインスリン治療が必要な1型糖尿病や、進行した2型糖尿病でインスリン治療が必要になった患者がインスリンを継続的に使うのはよく理解できます。それとは別に、血糖コントロールを取り戻すために一時的にインスリン治療を行うのもインスリンの重要な役目の一つです。
- 高血糖のためにインスリン分泌が障害された糖毒状態の解消
- 進行した2型糖尿病の血糖コントロールをまず取り戻すために
- 2型糖尿病患者が手術のストレスや他の疾患の併発で血糖コントロールを失った場合
インスリン治療で起きる低血糖は分単位、時間単位で起きますが、糖尿病による高血糖は自覚のないままに長い期間をかけて積み上がってきます。
この高血糖による酸化ストレスによって膵島のベータ細胞ではインスリン分泌が不全となり、さらに筋肉細胞でもヘキソサミン経路が亢進してブドウ糖の利用が障害されて、ますます高血糖が増悪する悪循環に陥ります。
この悪循環を断ち切るために外部からインスリンを注入して血糖値を正常化すると、糖尿病ビギナーほどベータ細胞のインスリン分泌能力が回復して、食事療法と運動療法だけで血糖コントロールがつくようになったり、元の経口薬だけで済むようになります。
この回復をNHKの某情報番組ではまるで糖尿病が治ったかのようにはやし立てていましたが、もちろん2型糖尿病が治ったわけではありません。残念ながら2型糖尿病は年々ベータ細胞の機能が減少する病気なのです。
ただ、高血糖による糖毒性や脂肪毒性によってベータ細胞が急激に損傷することは回避できるので、初めて2型糖尿病と診断された時点でHbA1cが9%以上もあるような場合は一時的なインスリン療法で回復を早めるべきです。
インスリン導入を医師も患者も嫌がります
一般論として、2型糖尿病でのインスリン療法は、合併症予防からすると手遅れと言っていい程タイミングを逸しています。インスリン治療の指導は、それなりの医療スタッフも必要で、費用も時間も手間もかかります。また、積極的なインスリン治療に十分な経験のある一般開業医も少ないのではないでしょうか。
進行した2型糖尿病でもインスリン導入は不活溌なのですから、この大切な診断初期の一時的なインスリン療法は糖尿病専門医でないと受けられないかも知れません。
とても効果のある治療ですから、諸外国でいろいろな論文が発表されています。
まとめてみると、2型糖尿病ビギナーではHbA1cが10~12%の人でも、2週間ほど体重1kgあたり0.4~0.7単位/日のインスリン治療を受けると約90%の患者が血糖コントロールを回復し、42~69%の患者は1年ないし2年間も食事療法、運動療法だけで血糖コントロールを維持できるようになりました。
医師も患者もこんなことに注意しよう
進行した2型糖尿病患者がインスリン治療に切り換えるのはそれなりのアルゴリズムがありますが、2型糖尿病ビギナーはインスリンに対し、とてもナイーブですから、古参の2型患者と同じでは低血糖や体重増の恐れがあります。参考までに米国の資料によりますと、HbA1cが8~9%ぐらいなら低血糖の少ない基礎インスリンだけでも十分に効果があります。体重1kgあたり0.2単位/日の基礎インスリンでスタートして、早朝空腹時血糖値を110~130mg/dlを実現させればHbA1cの1~2%低下を狙えます。
もちろん、インスリンの種類、注射量は担当医が判断するものですから私たちが勝手に判断してはいけません。
2型糖尿病ビギナーは自分のインスリン分泌能力が短期間で回復しますから、最初だけ要注意です。自分のインスリンになれば低血糖になりませんから、恐がらず慎重に一時的なインスリン治療に挑戦するのも選択肢の一つですね。
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