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悪玉LDLの"悪"の指標、アポリポ蛋白B

欧米の糖尿病者の主な死因は心・脳の大血管症です。日本でも急増中!そこで今までの管理目標悪玉コレステロールLDL-Cとは別の「アポリポ蛋白B」に注目が集まっています。

執筆者:河合 勝幸

コレステロール
大きさの比較。青がHDL、赤がLDL、黄がVLDLです。
一番小さくて重いHDLが善玉なんです! 表面のタンパク質構成が違うのでHDLは血管壁をすり抜けられません。

アポリポ蛋白質とは

欧米の糖尿病者の主な死因は心・脳の大血管症で、日本でも急増しています。これにより、悪玉コレステロールLDL-Cとは別の「アポリポ蛋白B」も注目されるようになりました。

かつてアメリカ糖尿病協会が主催した糖尿病エキスパートの会議で、「医師は患者に高コレステロール治療を施す場合はアポリポ蛋白Bのテストをしよう」というステートメントが出まし。2008年7月19日号のランセット誌でも急性心筋梗塞の最も良いリスク予測因子はApoB/ApoA1比だという論文が確認できます。糖尿病治療でも聞き慣れないApoA1(アポ・エー・ワン)とかApoB(アポ・ビー)といった言葉が使われそうですので、簡単に解説しておきましょう。

■アポリポ蛋白質
アポは"分離"を表わす接頭語でリポは脂肪の意味です。"アポリポ"で「脂肪を切り離した」になります。脂肪は水に溶けませんから、血液の中で脂質(中性脂肪やコレステロール)を運ぶ時は水になじむ運搬トラックの荷台につみ込まなくてはなりません。このトラックの役目をするのが蛋白質です。脂質を積んだトラックを「リポ蛋白質」と言います。

蛋白質は牛乳や卵白にたくさん含まれているので水に溶けることは理解できますね。

このトラックに中性脂肪やコレステロールを山のように積んで血液中を配送しているのがVLDLやLDLです。LDLの最初のLはライト(軽い)のL、Dは比重のことで最後のLはリポ蛋白質です。脂肪は水に浮きますから荷台に脂肪(コレステロールや中性脂肪)を積んだトラックは大きさの割には軽くなります。これがLDLの意味です。善玉コレステロールのHDLは、回収した荷物(コレステロール)が少ないので"重い脂肪運搬トラック"の意味です。

ですから、アポリポ蛋白質というのは「荷台から脂肪を下ろした空(から)のトラック」のことになります。人のからだの中で脂肪を運ぶトラック(蛋白質)には種類があって、A・B・C・D・E・F・G・Hと名づけています。

タイトルのアポリポ蛋白質B(ビー)というのは悪玉コレステロールLDLのトラックのことです。正式にB-100と表記することもあります。善玉HDLのトラックにはA1、A2と2種類あります。

今まではトラックが運んでいるコレステロールの「量」を管理目標にしてきました。糖尿病者は悪玉コレステロールを120mg/dl未満(冠動脈疾患がある場合は100mg/dl未満)にしよう、というコントロール指標はご存知ですね。

最新の研究では積荷(コレステロール)よりもトラック(アポリポ蛋白質)の台数の方が動脈硬化のリスク要因が大きいようなのです。

いつも言及しますが糖尿病になるとLDLが小型化します。つまり、同じLDL 120mg/dlなら健常者よりも糖尿病者の方がトラック(アポリポ蛋白B)の台数が多くなるのは十分に想定できます。その分、多くのトラックが血管壁に潜り込みます。糖尿病はやはり高リスクなのですね。

アメリカのコントロール指標

糖尿病エキスパートは次のように勧めています。

ApoB(アポリポ蛋白B) 90mg/dl未満
(冠動脈疾患や他のリスク因子のある人は80mg/dl未満)

LDLコレステロール 100mg/dl未満
(冠動脈疾患や他のリスク因子のある人は70mg/dl未満)

HDLコレステロール
女性:50mg/dl以上
男性:40mg/dl以上

中性脂肪:150mg未満(早朝空腹時)

日本ではまだアポリポ蛋白Bの指標は発表されてないようです。日本の指標はLDL 120mg/dl未満、HDL 40mg/dl以上、中性脂肪 150mg/dl未満です。

日本でもアポリポ蛋白の臨床検査は健康保険の適用ですから大学病院などでは既に受けられた方もいるでしょう。手元の資料(千葉大学付属病院)ではApoBの基準値が男性73~109mg/dl、女性66~101mg/dlになっています。

まとめ

今までは悪玉コレステロール/善玉コレステロールの比率が心筋梗塞のリスク予測に使われてきましたが、より精度の高いApoB/ApoA1が病態によって利用されそうです。


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