擁壁にある水抜き穴の設置確認ポイント
購入しようとする住宅や土地に「擁壁(ようへき)」があるとき、その構造や強度に何らかの問題があっても外見からはなかなか分かりづらいことが多いでしょう。それでも、≪写真でみる「擁壁」事例(住宅購入前の注意点)≫ で説明した亀裂やひび割れと併せて、忘れずにチェックしておきたいのが「水抜き穴」です。
擁壁と水抜き穴の関係性とは
擁壁の設置や構造などに関する技術的基準は宅地造成等規制法施行令によって定められ、その第10条により「壁面の面積3平方メートル以内ごとに少なくとも1個の、内径が7.5センチメートル以上の水抜き穴」の設置が義務付けられています。宅地造成等規制法の適用がない区域で擁壁の設置が求められる場合にも、この規定を準用して水抜き穴が設けられることが大半です(自治体の条例などにより異なる場合や、国土交通大臣の認可を受けた特殊な構法などを除く)。
ただし、擁壁の設置義務があるのは宅地造成等規制法の区域内が「高さ1m以上の盛土」の場合で、その他の区域は建築基準法により「盛土、切土に関係なく壁高2m以上」の場合です。
その高さ未満の擁壁は法的義務ではなく構造計算も伴わないため、必ずしも上記の基準に沿った水抜き穴が設置されているとはかぎりません。
そのため、水抜き穴がないことを不審に思った消費者と、売主業者、施工業者との間で感情的なトラブルになることもあるようです。基準以下の高さの擁壁でも水抜き穴のあるほうが望ましいのですが……。
水抜き穴がないとどうなってしまうのか
その一方で、水抜き穴がなかったり、細いパイプしか通されていなかったりする古い既存擁壁がそのまま使われている宅地も少なくありません。水抜き穴がないことによって地中の水分量が多くなり、地盤が軟弱化したり、擁壁を外側へ押し倒そうとする圧力が高まったりします。積まれた石やブロックの隙間から水が染み出すことで、経年変化による劣化以上に強度が低下することもあるでしょう。
さらに、水抜き穴のない擁壁で外側へのふくらみや石のズレなどがあれば、その危険度は高まります。購入時または近い将来に擁壁を造り直さざるを得なくなることも考慮したうえで、購入するべきかどうかを検討しなければなりません。
外見上に問題がない場合でも、ある程度の高さ以上の擁壁に水抜き穴がなければ、購入を決める前に専門家の調査を受けるなど、慎重な対応が望まれます。
また、水抜き穴はあってもその裏側の処理が不適切なら、想定外の劣化を招くことがあります。擁壁全体を見渡して、異常な水抜き穴がないかどうかにも注意することが必要です。
水抜き穴の塩ビのパイプが破損していることも多いのですが、道路に面した擁壁では、通行人のいたずらによって水抜き穴に空き缶などが差し込まれているのもよく見かける光景です。これらがあまりにひどい状態の擁壁も考えものでしょう。
水抜き穴が詰まれば、本来の機能を失うことにもなりかねません。
そのため最近の分譲物件では、擁壁の水抜き穴に専用の金属カバーを取り付けて保護をしている例もみられます。これなら余計な心配をしなくてすむでしょう。
水抜き穴から流れる水にも要注意
水抜き穴から流れる水にも注意が必要です。これが異常な色をしていたり、穴の回りに異物がこびりついていたりすれば、敷地の土壌に何らかの問題がある可能性も考えられます。植物の成長に適した養分を含んだ水が流れ出たためか、水抜き穴の回りにびっしりと雑草が生い茂っている例もあり、管理が大変なだけではなく、これでは水抜き穴の機能を果たすこともできません。
殺風景になりがちな擁壁に植物が生えるとアクセントにもなりますが、機能上は決して好ましいものではありません。擁壁がまだ新しいうちはダメージが少ないとしても、長い年月にわたり放置されていれば、擁壁の内側に根が伸びるなどして劣化が進んでいることもあるでしょう。
水抜き穴から流れた水の跡が黒ずんで変色し、美観のうえでとても気になるケースもありますが、逆にまったく水が流れた形跡のない水抜き穴も問題であり、なかなか難しいところです。
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