腰椎ヘルニアとは
脊椎と脊椎の間には椎間板と呼ばれる軟骨組織があります。腰にある脊椎(骨)の間に椎間板はあります
椎間板は、中心が柔らかい髄核と、その周りをとりまく繊維性軟骨組織からなる繊維輪から構成されています。この繊維輪が破れ髄核が外側に飛び出ると、炎症が発生します。さらに髄核が脊髄や神経根を圧迫し、疼痛やさまざまな神経症状が出現します。これが椎間板ヘルニアです。腰に発生した椎間板ヘルニアを腰椎ヘルニアと呼び ます。
線維輪から飛び出した髄核 これがヘルニアです 神経を圧迫します
以下の記事は実際の患者さん(72歳・女性・Aさん)のケースを元に、その体験を加工して記載してあります。Aさんは腰椎ヘルニアを発症しました。腰椎ヘルニアの症状、診断、治療、手術、手術費用などの理解を深めて下さい。
腰椎ヘルニアの症状
Aさん「2008年8月左足が痛くなりました。同じ時期に、だいたい400歩ほど歩くと痛みが強くなり、それ以上歩くことが困難になりました。すわって休むと楽になります。この経験はいままでなかったので近くにある整形外科のクリニックを受診しました。」Aさんに起きたのは、「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」という症状です。この間欠性跛行は腰椎ヘルニアの主要な症状ですが、閉塞性動脈硬化症などの血管性病変でも同じ症状が発生します。血管性と神経性のどちらが原因となるのかを鑑別するテストが「自転車テスト」です。自転車でも間欠性跛行が生じた場合、血管性病変であると判定します。間欠性跛行が歩行では発生し、自転車では発生しない場合、神経性病変と判定します。また血管性病変は「血管外科」を受診すれば病変の有無を判定できますので、その方がより確実です。
またAさんには見られなかった腰椎ヘルニアによくある症状として、腰痛、下肢のしびれ、下肢の筋力低下、直腸膀胱障害(排尿、排便の障害)などがあります。
腰椎ヘルニアの診断
■単純X線(レントゲン)20008年8月にAさんがクリニックで撮影した単純X線写真です。
腰椎単純X線 側面像
腰椎は5個、体の中央にあります。頭側は胸椎と関節でつながり、足の方向では仙骨とつながっています。5個の腰椎の間にはさまる構造が椎間板という軟骨です。椎間板が変性し脊髄や神経根を圧迫するのがヘルニアです。Aさんの写真では、第4腰椎、第5腰椎の間の距離が狭く なっています。椎間板はレントゲンには写りませんが、スペースとして認識できるのでおおまかな情報は得られます。
単純X線で異常があるだけでは病気としてヘルニアを診断することはできません。なぜなら病気でない正常な人にレントゲンの異常が高率に見られます。
次にMRI撮影の予約、投薬(鎮痛剤、胃薬、血流改善薬)の指示が出ました。費用は初診、3割負担の健康保険で3,000円ほどでした。
■MRI
MRIは専用の病院で撮影を行いました。
MRI写真 腰部脊髄が前方から強く圧迫されています 椎間板が狭くなっていることもレントゲンより鮮明にわかります
MRIは磁気を使用して人体の断面写真を作成する医療用機器です。被爆がないのが最大の特徴です。欠点は費用が約1万円程度と高額な点、狭い部屋に15分 間ほど閉じ込められて、騒音が強いことです。脳外科の術後で体内に金属が残っている人、心臓ペースメーカー装着の人、閉所恐怖症の人などではMRI検査が 無理なため、CTで検査を行います。CTの検査費用は5,000円程度と、MRIより安くなりますが、被爆があります。
MRIではコンピュータで計算した各種の画像がみられます。脊髄の画像を得ることが可能です。
脊髄(脊柱管)の画像 第4腰椎と第5腰椎の間の椎間板で脊髄が狭くなっていることがわかります
腰椎ヘルニアの治療
■安静ヘルニアの症状は、突然の疼痛と、その後の著明な疼痛の軽減ないし完全な消失が特徴。あわてて治療を進めるのではなく、我慢できる範囲の疼痛などであれば安静にして経過をみるのも一つの選択。通常6~8週間で、半分以上の方が軽快します。
■鎮痛薬
ボルタレン、ロキソニンなど非ステロイド消炎鎮痛薬( NSAIDと省略されます )。
・ボルタレン……1錠15.3円で1日3回食後に服用。副作用は胃部不快感、浮腫、発疹、ショック、消化管潰瘍、再生不良性貧血、皮膚粘膜眼症候群、急性腎不 全、ネフローゼ、重症喘息発作(アスピリン喘息)、間質性肺炎、うっ血性心不全、心筋梗塞、無菌性髄膜炎、肝障害、ライ症候群など重症な脳障害、横紋筋融 解症、脳血管障害、胃炎。
・ロキソニン……1錠 22.3円で1日3回食後に服用、副作用はボルタレンと同様。
どちらの薬でも胃潰瘍を合併することがありますので、胃薬、抗潰瘍薬などと一緒に処方されます。5年間、10年間の長期服用で腎機能低下などの副作用があ りますので、注意が必要。稀に血液透析が必要となる場合もあるので、漫然と長期投与を受けることはできる限り避けて下さい。
鎮痛薬の問題点は数ヶ月以上の服薬で胃腸症状、腎機能低下が高率に発生しますので、急性期を過ぎたら主治医と相談し、減量ないし休薬を考えましょう。
■神経再生薬
メチコバール ビタミンB12 障害された神経の修復を促進させる作用を持ちます。1錠21.1円を1日3回服用します。後発薬では5.6円のものが複数あります。4週間の服用で64%の改善率があります。副作用ですが、食欲不振、悪心、嘔吐、下痢、発疹などがあります。
■血行改善薬
オパルモン 血管拡張作用により神経に血流を増加させ痛みを減少させる作用を持ちます。1錠78.5円を1日3回服用します。6週間の服用で56%の改善率があります。副作用ですが、胃部不快感、発疹、頭痛、頭重感、下痢、貧血などがあります。
いずれの薬でも、Aさんの間欠性跛行は改善しませんでした。
そのため手術治療を考慮して、クリニックの紹介で総合病院の整形外科外来を受診しました。
■除圧椎弓切除術
神経に対する圧迫を除去するために、骨成分である脊椎の椎弓と呼ばれる部位を切除する手術です。人体の後方からアプローチします。
椎弓切除術 広範囲に骨を切除し 神経に対する圧迫を解除します
この手術はヘルニア除去と骨切除だけの手術であるため合併症は少なく、手術時間も短いです。Aさんの場合この手術を行い神経の除圧を行いました。手術時間1時間30分、術後の経過も良好で入院13日間で退院となりました。
健康保険を使用し3割負担で25万円の費用でした。高額医療のため2ヵ月後に17万円が健康保険の組合から還付されました。退院した時点で間欠性跛行が消失しました。術後の痛みもそれほど強くなくAさんは満足しています。