時代によって違う名前の傾向
名前というのはもちろん時代によって傾向があります。大河ドラマ『江』の主人公の江(ごう)という名前は、幸い真似をする人はいませんが、江はゴウとは読まず、またゴウは今では男性の名ですから、今つけたら難点だらけの名前です。ただ昔は一生変わらない唯一の本名という概念はなかったので、江(ごう)が本名だ、という言い方もできません。
ドラマ『江』に登場するほかの女性も、市、茶々、初、サキ、ウメ、ヨシなど二音の名前が多いですが、この点は最近も似ていて、リナ、カナ、リオ、ミホなど二音の名前が多く、サキなどは人気の名です。
当時実在した人の名で今もよく女の子につけられるのが、秀吉の正室、北政所の寧々(ねね)という名です。ただこれはやや強引な読み方であり、またご本人はオネと呼ばれていた人で、この名が本当にネネと読まれていたのかどうかも確かではありません。
ちなみに二音の名前でも、今人気のリオ、リナ、リサ、ルカといったラ行の名前は時代劇にはほとんど出てきません。ラ行は「令」「律」「理」など、筋道、区分けをあらわす音です。男社会であった戦国の世と比べて、今は女性がものごとを割り切り、メリハリをつけて生きている時代だということではないでしょうか。
江(ごう)という名前のもつ意味
「江」は水と工をあわせた字
江はもちろん水と工を合わせた字です(古い字体は左右が逆になっていますが)。工は工具を描いた絵で「つき通す」の意味をもっており、虹(空を貫くニジ)、功(力を出し通す)、攻(つき進む)の字も作られました。江は地面を貫いて長く伸びる水のことで、そこでエサをさがす鳥を鴻(コウ)と書きます。
またガ行の音は我慢、疑問、愚痴などの言葉が示すように心の葛藤をあらわし、またガンとして、グッとこらえる粘り強さも意味します。つき進み、長く伸びるイメージの江の字、そしてガ行の音の名前は、織田、柴田、羽柴、徳川など多くの家と深く関わり、心の葛藤をかかえながら粘り強くつき進み、最後に徳川家の中心的存在にまでなった生き様と重なります。そして江戸幕府の江であるのも奇遇なことです。
地名における「江」
最近は地震への警戒も強くなって、土地の地盤を調べるために古地図が売れているようですが、古い地名というのも、たとえば台がつけば地盤が固いとか、沼がつけば軟弱だとか、いろいろ言われたりします。
江のつく地名ですが、そこに長い入り江があったとすれば、太古の昔に地割れが生じ、つまり活断層があって地面が動きやすい場所ではないか、という想像もできるかもしれません。そして長崎の普賢岳の近くの深江町、神戸の東灘区の深江では、じっさい大きな被害は出ています(ただし江戸という地名の由来は地質とは関係ありません)。でも地盤ばかりを心配することにどれほどの意味があるかは疑問です。活断層は発見されていないものまで含めれば、むしろ無い場所をさがすことのほうが難しく、震災の被害は地盤の問題以上に都市造り、町造り、建物の構造のほうが大きく関係します。