ジンギスカンを心おきなく
ところで、ジンギスカンは蔵王が発祥だということをご存知だろうか? 戦後、羊毛が暴落し、困窮する農家を羊肉料理で救済しようと始まったものだと言われている。モンゴルの鉄兜で焼く方法を参考に、山形鋳物工場に鉄鍋を作らせて改良を重ねた後、その味は国民体育大会冬季大会で好評を博し、全国に知られるようになった。というように、蔵王が誇るべきジンギスカンだが、残念ながら部屋数の多い旅館ではジンギスカンは不向き。ラム肉が苦手な客人からは嫌厭されるし、臭いは染み付いてしまう。なので、「ジンギスカン部屋」なる特別室を用意している宿もあるくらい。でも、ここ「ろばた」ならそんな心配は全く無用!
温泉でポカポカの肌に浴衣を羽織り二階の部屋で夕食を待っていると、漂ってくるのは香ばしくて美味しそうなラム肉の臭い。部屋のドアを開ければ、下から聞こえてくるのは常連さんの賑やかな声。待ちきれない気持ちを抑え、唾をゴクリと呑み込む。用意されていたのは程良く脂がのった厚切の生肉。熱々の鉄鍋でジュゥジュウと音を立てながら焼き特製のタレにつけて、ガブリ。これが最高にジューシー。新鮮だから臭味はほとんど感じない。肉と脂のうま味がタレと絡んで何枚でもいただける。
宿のご主人いわく「ここに来てジンギスカンが食べられるようになった」という方もいるそう。タレにもこだわり、味の決め手となるリンゴは専用の木で育てているそう。肉汁が染み込んだ野菜も残さずいただこう。
浴衣に臭いがついたって気にしない。寝る前にもう一度宿の風呂にザブンと浸かれば済む話だ。しかも貸切制だから完全にリラックス状態。そのままベットに滑り込めば、まさに至福の時が訪れるにちがいない。
次の日も新鮮な硫黄泉で朝風呂ができるとは嬉しい限り。シャッキリと目が覚めることができる。
その訳は「X(エックス)」にあり!
ロフトがあるので最大6名まで泊まれる
その訳は、宿に「X(エックス)」があるから。「え? エックスって何?」という声が聞こえてきそうだが、ろばたの「X」は居酒屋。居酒屋には近隣の常連さんや他の宿に朝食付きで泊まって夕食を食べに来てくれるパターンもあるそう。
つまり「宿泊」客以外の販売チャネル(兼業)があるから部屋を埋めなくても成り立つビジネスモデルができているのだ。極端なことを言えば、スキーをやりに来てくれなくてもトレッキングをしてくれなくても、ジンギスカンを食べに来てくれる固定客を確実に掴んでおくということ。「部屋を埋めなければならない」という装置産業の呪縛から解かれれば、部屋と食事の抱き合わせで料金を吊り上げる必要もなくなる。一泊二食以外の食事料金を提示すれば新たな客層も獲得することができ、結果的に適正な価格で満足度の高いサービスが提供できるようになるのだ。
これをして、私は「半宿半X」と呼ぶ。全国の宿の一階には、居酒屋の他にも酒屋、寿司屋、天ぷら屋、うどん屋と様々な「X」がある。先ずは手始めに夏の蔵王から「X」を体験してみてはいかが?
■蔵王温泉 ろばた
住所:山形県山形市蔵王温泉字川原42番地の7
TEL:0236-94-9565
地図:Yahoo!地図情報
次回は、同じく山形県の「おふたり様専用宿~時の宿 すみれ」をご紹介しよう。しばらく続くよ、東北シリーズ!