スカイセンサーの仕組み
ガイド:先ほどの話にもあったスカイセンサーですが、これはソニー製の短波ラジオですよね。これはどのような仕組みで使っているのですか? 今回スカイセンサーを多用した曲は?
中野:
スカイセンサー5900にはアマチュア無線などの信号を復調し聞きやすいものにするBFO(Beat Frequency Oscillator)という発振回路が搭載されています。この音が好きで使っています。BFOをオンすると、同時に自分の中でも何かのスイッチが入るような感覚があるんです(笑)。チューニング音をありのままにミックスすることもあれば、さらに外部から変調をかけてフレーズを作るといったようなこともしています。今回のアルバムでは「フレーム・バッファ I」や「Long Distance, Long Time」、「Pilot Run #4」などで目立つ使い方をしています。
超音波センサーからのシグナル音
ガイド:タイトル通り、今回の作品にはシグナル音とノイズ音が散りばめられています。8曲目の「デッドエンド羅針」もシグナル音が多用されていますね。このシグナル音というのはどのようなプロセスで作られているのですか?
中野:
サイン波という単一の周波数成分からなる信号音とノイズ音が、サウンドを構成する重要な要素になっています。BCL(※2)が原体験としてあるかもしれません。昔、趣味の短波放送受信をしていたラジオ少年時代、海外からの電波を受け取るのに、放送局からの信号と同時にノイズをも情報として知覚していたような。微弱な雑音だらけの受信にもずーっと耳を傾けていられたという(笑)、そういう感覚が今に影響しているように思います。
音のプロセスとなると少し専門的な話になります。サイン波は愛用のミキシングプロセッサーに内蔵された発振器(音響機器調整用の信号)で作っています。中低域を支える50Hzと100Hz、金属的な響きを与える5kHzと10kHz、それに加えてその曲のスケールに合わせた周波数の信号、それぞれをミキサーに立ち上げ個別にコントロールし発音させます。これを基本として、曲によってはノコギリ波や矩形波を使うこともあります。例えば「デッドエンド羅針」がそうですね。この曲ではさらにそれらの信号をデジタル化しビット深度を下げるといったこともしています。ノイズの要素としてはラジオノイズ、スクラッチノイズ、環境音、ピンクやホワイトといった色の(カラード)ノイズなどですね。スタジオ内のファンやモーター音などといった環境音の録音には自作のマイクやダミーヘッド(※3)を使いました。
センサーから出る超音波の見えないビームを手刀で切るというスタイルで演奏する超音波センサーUTS-6(※4)は、1995年から主にライブの現場で使用してきました。手刀に反応してセンサー回路から5ボルトの短い電気信号が出力されます。信号はMIDI情報に変換され、さらにアプリケーションによって様々なMIDIメッセージとなり音楽や映像をコントロールします。トリガーはトリガーなのですが簡単にはそう言い切れない、何か妙に有機的でグルーヴするような感覚があります。目に見えないせいもあるのでしょうが、誤動作も含めそこがまた良くもあるという、自分にピッタリのインターフェースであります。
(※2)海外からの短波による国際放送を聴取して楽しむ趣味。1970年代にBCLブームが起こった。
(※3)模擬人頭の鼓膜の部分にマイクロフォンを埋め込んで録音する装置。
(※4)高橋芳一氏制作によるオリジナルミュージックデバイス「Under Techno System」のシリーズ。