肺塞栓症の症状

症状は、血栓によって肺動脈どのくらいふさがるか、また患者さんの全身状態によりさまざまです。もともと肺疾患や心臓病があるひとは一層悪くなります。

肺塞栓

クルマ生活や飛行機旅行のあとなどに突然起こる息切れでは肺塞栓の可能性があります

小さい塞栓では症状はありません。それ以上のほとんどの塞栓では、突然起こる息切れがみられます。呼吸ははあはあと速くなり、落ち着かず、不安発作(パニック障害)を起こしているようにみえます。大きな、広範囲の塞栓は、胸の強い痛みを起こし、特に息を吸う際にひどくなります。

心機能が良好な場合では閉塞肺血管床の25~50%の閉塞では肺動脈圧と右室圧の急激な上昇がおこり、右室腔の拡大をおこします。拡大した右室腔は左室腔を圧排し、左室腔の拡張を妨げるため全身へ送り出す血液量が減少します。左右の肺動脈が詰まるような閉塞肺血管床が50%を越える場合では右室腔の拡張のみでは補うことができなくなり、血圧低下、ショック状態となり、ときには心停止を生じます。

ときにめまい、失神、けいれんなどで発症することもあります。これらは、肺動脈が詰まるため酸素を豊富に含んだ血液が不足したり心臓の力が落ちるために起こります。不整脈が合併することもあります。太い肺動脈が1つ以上ふさがると、指先や唇などの皮膚が 青紫色に変化し(チアノーゼと呼びます)、突然死することもあります。

血管を閉塞した血栓は様々な血管収縮物質や気管支収縮物質を放出し、状態をさらに悪化させます。

一般に肺塞栓症の症状は急に生じますが、肺梗塞は数時間かけて発症します。肺梗塞では、血液の混ざったたんを伴うせき、息を吸うときの鋭い胸の痛み、場合によっては発熱がみられます。これらの症状は数日間続きますが、日ごとに軽快します。

狭い範囲の肺塞栓症が繰り返し起こると、慢性的な息切れ、足首や脚のむくみ、脱力感などの症状が、数週間、数カ月または数年かけて徐々に悪化することがあります。

肺塞栓症の診断

患者さんの症状と問診つまりお話しが大切です。地震のあとクルマの中でしばらく生活していたとか、飛行機で長時間の旅行をしたばかりとか、最近の手術を受けたとか、長期間の寝たきり状態などを聞き出して肺塞栓症を疑います。広範囲の肺塞栓症の診断は比較的容易です。特に、脚の静脈内に血液のかたまりがあるなどの明らかな必須条件がある場合は簡単です。診断はいくつかの検査で確定しますが、検査でわからないケースもあります。

■胸部X線検査
肺血管影の変化や、肺梗塞の徴候がわかることがありますが、はっきりしないこともよくあります。

■心電図
常が認められることがありますが、こうした異常は一時的なことが多く、肺塞栓症の可能性がわかるだけです。

■下肢静脈のエコー
下肢の血栓を見つけることで塞栓が最初にできた場所がわかることがあります。

■Dダイマー
Dダイ マー(フィブリン分解産物の1つ)検査などの血液検査は、診断をより確実なものとするために行います。検査結果が正常だった場合には、肺塞栓症の可能性が低くなります。

スキャン

肺血流スキャンの一例を示します。矢印のところが血流の欠損した部位で、そこに肺塞栓が起こったわけです

■肺血流スキャン
決め手となる検査法の1つです。静脈内に注射された少量の放射性物質が肺に運ば れ、肺で血液が流れる様子を映し出します。血栓のため肺動脈の血液が流れなくなった場所には放射性物質が届かず、暗く映ります。

スキャンの結果が正常で あれば、大きな血管の閉塞がないことを示します。スキャンの結果に異常があれば肺塞栓症の可能性がありますが、閉塞性肺疾患たとえば、肺気腫など、他の病気の影響で異常がみられることもあります。

肺血流スキャンは普通、肺換気スキャンと組み合わせて行います。このスキャンの結果を肺血流スキャンで示された血流パターンと比較し、換気と血流に違いがあるかどうかによって肺塞栓症かどうかを診断できます

肺血栓

CTなどによる肺血管造影で血栓(矢印)の大きさや形・位置などもわかります

■肺動脈血管造影法
肺塞栓症を診断する決定的な検査法です。造影剤を肺動脈に注入し、肺塞栓症は動脈内の一部が欠けた陰影となって現れます。

■CT血管造影法
こちらも正確な検査法です。より快適で安全な検査です。

肺塞栓症の治療

■保存的治療
酸素吸入療法を行い、必要に応じて鎮痛薬で痛みを和らげます。

ヘパリンなどの抗凝固薬を用いて、血栓が大きくなるのを防ぎ、また新たな血栓が生じるのを防ぎます。低分子ヘパリンは、従来のヘパリンと同様の効果がありますが、血液検査による管理は必要なく便利です。

ワーファリンも血液凝固を予防する働きがありますが、十分な効果が出るまで時間がかかるため、ヘパリンで安全確保した後から投与します。ワルファリンは内服薬なので長期間の使用が可能です。

抗凝固薬の服用期間は患者の症状によって異なります。手術など一時的な要因で肺塞栓症が生じた場合、治療期間は2~ 3カ月間です。長期間の入院など、より慢性的な問題によって肺塞栓症が発症した場合、治療期間は普通は3~6カ月間ですが、一生続けることもあります。

ワーファリンを服用 している間は、定期的に血液検査(INR検査)を受けなければなりません。納豆やクロレラなど特定の食べものや他の薬剤によって、ワー ファリンの抗凝固作用が影響を受けることがあります。他の薬剤これによって抗凝固作用が増強されると、全身の臓器に重度の出血が起こり危険です。

血栓溶解療法は、命にかかわる重い肺塞栓症の患者に行われます。ウロキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)などの血栓 溶解薬は、凝固した血液を分解し、溶かします。しかし、これらの薬剤は出血のリスクのため、最近2週間以内に手術を受けたり、妊娠していたり、脳卒中を最近起こしていたり、 出血しやすいといった人には使えません。

肺塞栓症の予後およびカテーテル治療・手術

正常な心肺状態の患者は,閉塞が肺血管床の50%を超えることがなければ死亡することは少ないです。最初の塞栓が致命的な場合,1~2時間の間に死亡することが多く、心肺機能が低下している場合は死亡率は25%以上とされています。

未治療例での塞栓再発率はおよそ50%とされ、これらの再発の約50%ほどが致命的となります。抗凝固治療により再発率は約5%まで低下します。

脚や骨盤から右心房へ流れる下大静脈内にフィルター(アンブレラフィルターと呼び傘の骨組みのような形をしています)を入れる治療法もあります。フィルターは、抗凝固薬による治療を行っても塞栓が再発したり、抗凝固薬が使用できない、場合に使用します。脂肪や羊水によって生じる塞栓では、酸素吸入療法や人工呼吸器が必要になることがあります。

重い肺塞栓症の患者では手術が必要になることもあります。肺塞栓の急性期の死亡率は発症1時間以内は10%と高いため、手術が検討されます。この手術で、肺動脈から塞栓を除去すれば助かります。持続する息切れや肺高血圧症を起こすような長期間にわたる肺動脈の凝固物を取り除く際にも手術をします。

治療を受けていない肺塞栓症の患者の約半数は、いずれ新たな塞栓症を起こします。再発を起こすと、その半数が死亡します。抗凝固薬による治療で、再発率を約20人に1人にまで減らすことができ、肺塞栓症による死亡率を約5人に1人まで減らすことができます。死亡するかどうかは、塞栓の大きさ、ふさがっている肺動脈の太さや数、患者の全身状態によって異なります。

心臓や肺に重い障害がある人は、肺塞栓症で死亡する可能性が 高くなります。心臓や肺の機能が正常であれば、塞栓が肺の血管の半分以上をふさがない限り、死亡することはありません。肺塞栓症で死亡する場合、普通は急 激に発症し、1~2時間以内に死亡します。空気塞栓症で死亡することはありますが、心臓や肺動脈に運ばれた空気の量が多い場合に限ります。

肺塞栓症の予防法

予防

歩くことが肺塞栓の予防に大変役立ちます

肺塞栓症は命にかかわる病気ですから、肺塞栓症になるリスクの高い人では、血栓ができないよう予防策を試みます。普通、血液のかたまりやすい人は血液がよどまないように、できるだけ動き回るようにすべきです。

たとえば、飛行機で海外旅行をするときなどには、機内で2時間ごとに立って歩き回るようにします。地震でしばらくクルマ生活を余儀なくされる場合でも、ちょくちょく歩いたり足踏み運動、つま先押さえ運動をしたり、可能なら下肢を高くあげたりします。ワゴン車やスペースの大きいクルマではできれば座席を水平にすると良いでしょう。

今回の熊本地震では避難所ではプライバシーが保ちづらいとか、人の動きで夜ゆっくり眠れないなどの理由からクルマ生活を送る方が多いようです。それには危険がつきまとうことを認識頂ければと思います。上記の注意で肺塞栓の悲劇はかなり防ぎやすくなるでしょう。

水分

十分な水分を取ることが血栓塞栓の予防に役立ちます

なお水分を十分とると血液がサラサラになって血栓ができにくくなるのですが、トイレに行くのを嫌って水分を控える方が少なくありません。これは危険です。十分水分をとり、トイレへ行くことで下肢の運動もでき、一石二鳥とお考えください。水分ではお茶やミネラルウォーターで役立ちますが、スポーツドリンクはより効果的です。ただしこれには塩分や糖分が入っており、高血圧や糖尿病の方は注意が必要です。

手術後、特に高齢の患者は、弾性ストッキングをはいたり、脚の運動をしたり、できるだけ早くベッドから起き上がり歩くことなどの方法で、血栓が生じる危険性を減らすことができます。脚を動かすことができない場合は、靴下のような形をした加圧装置を用いて脚や太ももの内部の血液を動かすようにします。しかし、股関節や膝(ひざ)の手術を受けた患者では、血液凝固を予防するのにこうした装置だけでは不十分です。

そうした場合は抗凝固薬が投与されます。ヘパリンは、最も広く使用される抗凝固薬で、特に下肢への大手術の後、ふくらはぎの静脈内に血液のかたまりができるのを予防します。肺塞栓症になるリスクが高い入院患者(心不全、急性心筋梗塞、慢性肺疾患、肥満、脳卒中などの神経疾患、以前に血液凝固が見つかった患者など)は、ヘパリンの少量投与で効果があります。

少量のヘパリンを手術直前と、患者が起き上がり、再び歩き回るようになるまで皮下注射します。ヘパリンは少量であれば、重大な出血性の合併症を起こすことはまずありませんが、傷口から血液がにじみ出る程度の軽い出血が増加します。

低分子ヘパリンは、従来のヘパリンと同じかそれ以上に血液の凝固を防ぐのに効果があります。低分子ヘパリンは皮下注射し、血液の凝固が進む危険性がなくなるまで投与を続けます。

ワーファリンは飲み薬の抗凝固薬で、血液のかたまりが生じやすい手術を受ける患者に投与されます。ワーファリンによる治療は、数週間から数カ月にわたって続けることが必要です。低分子ヘパリンもこうした患者に効果があります。

関連サイト: 心臓外科手術情報WEB の中の肺塞栓症のページ
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