本家のハマグリは今や絶滅危惧種
ハマグリはその見た目が栗に似ていることから、浜の栗、ハマグリと名付けられました。ハマグリはマルスダレガイ目マルスダレガイ科で、仲間にはチョウセンハマグリ、シナハマグリ、タイワンハマグリ等がいます。在来のハマグリは、河口や内湾に生息しますが、埋め立てや水質汚染などによって失われ、現在ではほとんど流通されていない状態で、レッドデータブックでは6地域で絶滅(千葉県)、絶滅危惧種等として登録されています。
仲間のチョウセンハマグリは朝鮮半島にも生息しますが、日本の外洋にも生息する品種です。店頭で見かけるハマグリのほとんどが、中国や韓国から輸入されているシナハマグリか、地ハマグリとも表示される国産物のチョウセンハマグリです。
シナハマグリは、日本にはもともと生息していない種ですが、近年は放流したものと国産物と交わった日本産シナハマグリが発生しているとか。識別も難しい上に、野生化したシナハマグリが絶滅寸前の在来ハマグリの脅威ともなるのではないかと懸念されています。
「ぐれる」という言葉は「ハマグリ」から
日本では古くから食され縄文貝塚からもたくさん出土しているそうです。殻のかみ合わせが、対になったもの以外は合わないことから、女性の貞節や夫婦和合の象徴と考えられ、雛祭りや結納や結婚など縁を結ぶお祝いの食品として用いられてきました。余談ですが、結婚披露宴の吸い物にハマグリを用いるのは、なんと八代将軍吉宗の発案と言われています。
また「ハマグリ」の逆さ読みとして「ぐりはま」という言葉が生まれ、食い違って合わないことを意味し、さらにこれが「ぐれ」と略され、動詞化したものが「ぐれる」という言葉になったのだとか。
ハマグリの殻を「貝合わせ」などの玩具、碁石やボタン、また漢方薬に使われるなど、ハマグリは古くから日本人の生活に溶け込んでいたのです。
ハマグリの生食を避けるわけ
ハマグリは、輸入品もあり年中食べられますが、やはり冬から産卵前の3月~4月がおいしい時期。産卵期をむかえる5月以降には味が落ちます。海外などでは新鮮なハマグリは生でも食べられるそうですが、日本では生食は避けるように言われてきました。現在ではノロウイルスなどのウイルスや細菌が懸念されるように、昔から食中毒を恐れて生食を避けてきたのではないでしょうか。
また別の理由として、ハマグリには、ビタミンB1分解酵素のアノイリナーゼが含まれているため生食するとビタミンB1 を分解してしまいます。加熱することによりアノイリナーゼを不活性化させますから、食中毒を防ぐ目的も兼ねて、十分加熱して食べることがおすすめです。
市販のものは細菌・ウイルスなどの検査も受けていますが、ノロウイルスなどは中心温度が85℃以上で1分以上加熱するように勧告されています。(厚生労働省)
参考/
日本食品成分表
健康・栄養フォーラム(国立健康・栄養研究所)
日本のレッドデータ検索システム
ノロウイルスに関するQ&A(厚生労働省)
沈黙の干潟―ハマグリを通して見るアジアの海と食の未来―
和歌食物本草 現代語訳(源草社)
図説 江戸時代食生活事典(雄山閣出版)
日本の「行事」と「食」のしきたり(青春新書)
その他