糖尿病の暁現象とは
明け方になると、急に血糖値が上がるのはなぜ?
暁現象(Dawn Phenomenon)とは、明け方4~6時頃に、急に血糖値が10~20mg/dlぐらい上昇する現象を指します。
深夜、熟睡している間に分泌される成長ホルモンは、インスリンの効き目を悪くして(インスリン抵抗性)血糖値を上げますが、その作用が数時間遅延することで、早朝4時頃から8時頃まで血糖値が高くなってしまうことがあるのです。
睡眠中の成長ホルモンは、健常者でも糖尿病者でも出ていますが、健常者の場合は血糖上昇があってもインスリン分泌で相殺されるため、血糖値には影響しません。
暁現象は米国で1980年代に血糖自己測定が行われるようになってから、話題になりました。その頃のインスリン治療、基礎インスリンとしてNPH を1日2回注射することが多かったのですが、夕食時に注射したNPHのピークが深夜1時ごろになるため午前1時~3時の低血糖の原因になりがちでした。
逆に午前4時頃になるとこのインスリン作用が低下して、ちょうどその頃に成長ホルモンによるインスリン抵抗性が上昇するので思わぬ血糖値になることがあったのです。この現象は特に1型糖尿病の人に多くみられました。
2008年より日本でも血糖値を連続測定するCGM(持続血糖測定)システムが利用できるようになったので、血糖測定が難しかった就寝中の血糖トレンドが分かるようになりました。
1型糖尿病では眠っていて自覚できない低血糖が意外に多かったのです。この低血糖の繰り返しが無自覚性低血糖へと進むのですから油断なりません。
インスリン過剰による低血糖は数分単位で進行しますが、高血糖は数時間、数日かけて累積しながら上がっていきます。その意味で朝の高血糖はその日の治療を難しくしがちです。
経口薬でもインスリン治療でも、朝食後2時間の血糖値よりも朝食前の血糖値の方が高い(あるいは同じ)くらいの人は、この暁現象の可能性があります。
暁現象の対策法・糖尿病の朝の高血糖を下げるには
暁現象は、特に1型糖尿病では成長期の年少者に多くみられますが、病歴が長くなると少なくなります(おそらく成長ホルモンが減って、体が大きくなった分、インスリン単位が増えてくるためではないでしょうか)。2型糖尿病の場合は、逆に病歴が長くなるほど、つまり、ベータ細胞の機能低下でインスリン治療が必要になってくるに従って暁現象が現れるようになります。1型糖尿病では基礎インスリンとして、ランタスやトレシーバを使うと暁現象が穏やかになることが知られています。暁現象のある、インスリンポンプ治療の人は、早朝時間の基礎インスリンを少なくとも20%増やすことが勧められています。
インスリンを使わない2型糖尿病の人は、夕食のタイミング調整と炭水化物の量を減らして、就寝時の目標血糖値を70~110mg/dlに収めること。もし、食事コントロールで不十分でしたら、夕食時に中間型インスリンや長時間作用のSU薬を処方することもあります。
もし、暁現象が続く場合は、基礎インスリンを使うことも選択肢の一つ。一般にはメトホルミンを服用して、肝臓からのブドウ糖放出を制限することが多いと思われます。
朝の血糖値が高いのは、暁現象とは別にも、いろいろな原因が考えられます。夕食を食べすぎた、前日の夜のインスリンが不足だった、服用した薬の量が不正確だった、就寝前のスナックなどの炭水化物の影響、等々。もちろん、早朝空腹時血糖値はインスリン治療の人には基礎インスリン投与量の管理目標ですから、暁現象とは別に基礎インスリンの増量もあるでしょう。
「高血糖は累積の結果」と書きましたが、A1Cが8%以上ある人は早朝空腹時血糖を下げることが一番効果があります。いずれにしても朝の血糖値の管理はとても重要なことなので、担当医とよく相談してみてください。
朝の高血糖もうひとつの原因は、ソモジー効果
今回ご紹介した暁現象のほかに、朝の空腹時高血糖の原因として考えられるのは「ソモジー効果(Somogyi effect)」です。寝ている間に低血糖になると、からだがそれに応じて血糖をあげるホルモンを分泌して対応するため、血糖値が上昇するという現象を指します。ただし、本当にこういうことが起きるかどうかは議論が分かれるところです。1型糖尿病の人がインスリンを使いすぎたり、アルコールの摂取、夕食が少なすぎたりすることがソモジー効果の起因です。
そのため対策法は暁現象とは逆。血糖値が下がりすぎないように就寝時にスナックを取ったり、就寝中の低血糖を避けるためにピークのあるインスリンのNPHをフラットな基礎インスリンのトレシーバに代えたりすることが勧められます。
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