売買契約による手付金は「保全措置」によって返還保証されている
「売買契約」と「請負契約」は似て非なり
どちらもよく知られた方法であり、一体何が違うのかと思うかもしれませんが、不動産法規の視点から眺めてみると、両者は似て非なる契約形態です。そして、法整備の温度差が消費者保護の不備に直結し、前払い金を詐取するといった被害の温床になっています。
前者の「売買契約」は宅建業法によって規制され、同法によって手付金(前払い金)に関する取り扱い方法が明文化されています。宅建業者が自ら売り主となる土地建物の売買契約においては、具体的に次のような法定ルールが定められており、買い主が不利な立場に陥らないよう安全網が敷かれています。
- 売買契約の締結に際し、売り主は代金の10分の2を超える額の手付を受領することができない。
- 売り主は所定の手付金保全措置を講じた後でなければ、買い主から手付金を受領してはならない。
2番目の「手付金保全措置」とは、売り主が売買の目的物(マイホーム)を引き渡す前に破綻してしまっても、買い主には支払い済みの手付金が戻ってくるよう取り決められた返還保証制度のことです。これによって買い主は、売り主が保全措置を講じない限り、手付金の支払いを拒むことができるようになります(ただし、例外規定あり)。万一の場合に買い主が不利益を被らないよう、消費者保護が図られているのです。
請負契約には前払い金に関する「法定ルール」が存在しない
ところが、後者の「請負契約」には宅建業法のような業務内容を規制・監督する直接の法律(法定ルール)はありません。工事の注文者(消費者)と請負業者が相対で取り決めた工事請負契約書のみが権利義務関係を明らかにする唯一のより所となり、この“約定ルール”にのっとって前払い金は取り扱われることになります。アーバンエステートが利益の追求を最優先とせず、顧客第一で真摯(しんし)な態度がとれる優良企業であれば、こうしたトラブルは起こらなかったでしょう。利己主義的な放漫経営が、一連の事件の呼び水になったことは明らかです。と同時に、請負契約における前払い金詐取を想定していない不動産法規にも問題(欠陥)があると言わざるを得ません。注文建築に関する「住宅完成保証制度」という任意の制度はありますが、残念なことに今回のトラブルでは十分な効果を発揮することができませんでした。
【工事請負契約においての徹底事項】
- 請負契約締結時には注文者と工事請負業者が資金計画について十分に打ち合わせし、工事代金の受け渡しの時期や支払方法、金額(出来高査定)の基準について相互の理解を深めておくこと。
- 工事請負契約締結後に工事代金の受け渡しの時期や支払方法などを変更する場合には、必ず変更契約の手続きを取ること。
2009年6月には「アーバンエステート被害対策弁護団」が結成され、すでに被害者24名を原告とする損害賠償請求訴訟がスタートしています。同社の元会長らが年明けに逮捕されたことで、今後は民事と刑事の同時進行で被害者の救済と事件の全容解明が進むことになります。
住宅は生活の基盤、夢のマイホームを脅かすようなトラブルは二度と繰り返されてはなりません。せっかく回復軌道に乗った住宅市場を腰折れさせないためにも、早急な請負契約の前払い金に関する法定ルールの策定が求められます。