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相互厭人的読書生活1(2ページ目)

読んだ本についての記録です。タイトルの「相互厭人的」は、ヨシフ・ブロツキイ『私人』の〈小説や詩は独り言ではなく、作者と読者の会話〉であり、〈他のすべての人を締め出す極めて私的な〉〈「相互厭人的」な会話なのです〉という文章にちなみました。

石井 千湖

執筆者:石井 千湖

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18世紀フランスがおもしろい

醜聞の作法

いつの世も人はゴシップ好き。

2日は近所の神社で初詣。おみくじは吉でした。去年は凶だったので、幸先がいい。幸先がいいといえば、『醜聞の作法』を読めたことも。

時は18世紀末のパリ。さる侯爵が、美しく育った養女を、自分の遊び友達の後妻に送り込もうとする。その友達は、金持ちのエロじじい。我が子同様に可愛がっている娘の幸せを願う侯爵夫人は、縁談を壊すため、人を雇って噂を撒くのだが……。

噂の広まり方、人々の反応を読んで、年末にTwitterをにぎわせた、芸能人の不倫暴露ツイートを思い出した。人間って、何百年も前から同じことをやっているのだな。

噂の元になるパンフレットに侯爵家の養女と音楽教師の悲恋物語を書く貧乏弁護士、ルフォン氏が好きだ。帽子屋の娘と結婚したおかげで事務所に飼い殺しされ、意地悪な姑にはいじめられ、いつもパレ・ロワイヤルのベンチに腰を下ろして、ぼんやりしている。そんな潮垂れた男なのだが、情に訴える文章を書く才能があって、瞬く間に大衆の心をつかむ。後半の活躍ぶりには笑った!

本書は書簡体小説なのだが、侯爵夫人と噂の仕掛け人である「私」のやりとりだけではなく、ルフォン氏が書くパンフレットも手紙形式。最初は「私」の声だけだったのが、だんだん、多様な声が入ってくるところもおもしろい。

特にすごいのが170ページ、「私」がシャンゼリゼで出会った男に

沈んでいるのがおわかりですか。


と訊かれる場面。〈沈んでいる〉とはどういうことか、男が語る内容が昔の外国のこととは思えない。こんなに知的で愉しい風刺小説を年の初めから読めるなんて、吉どころか大吉だった。

■DATA
タイトル:『醜聞の作法』
著者:佐藤亜紀
出版社:講談社
価格:1,680円(税込)
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