HIVというウイルスの特徴
HIVは、「レトロウイルス」と呼ばれるウイスルの仲間です。ウイルスは、それだけではRNA(=リボ核酸という遺伝物質)を複製したりタンパクを合成することができず、従って増えることができません。自分自身を増やすことができる細胞に感染して、その感染した細胞に、自身のRNAや必要なタンパクを作ってもらい増殖していきます。DNAは2重のらせん構造をしています。
※遺伝子とは、DNAの中でも遺伝情報を持った部分のことを言います
そのため、HIVのイガイガの丸い構造の中には、HIVの遺伝情報をもった「RNA」と、RNAからDNAとなるための「逆転写酵素」、免疫細胞の核にあるDNAに入り込むための「インテグラーゼ」と、主に3つの物質が入っています。HIVの症状については、こちらの記事をご覧下さい。
HIVが免疫細胞に感染して増殖するしくみ
次に、そのHIVが免疫細胞に感染して増殖していくまでの過程をご紹介します。1. 免疫細胞への侵入
HIVが免疫細胞の表面に付着します。そして、免疫細胞の中に、HIVの中にあるRNAと逆転写酵素、インテグラーゼを送り込みます。
2. HIVのDNA合成
免疫細胞の中に入り込んだRNAが、逆転写酵素を使って、HIVのDNAを作ります。
※RNAは、1重の紐のような感じです。そこに、免疫細胞内の材料を使ってその紐に対応するもう一本の紐を作って、2重のらせん状態にします。それがDNAのイメージです。
3. DNAの組み込み
免疫細胞の中で作られたHIVのDNAが、免疫細胞の核の中に入り込みます。核には免疫細胞自体のDNAがありますが、そのDNAの中に、HIVのDNAが組み込まれます(プロウイルス)。そのDNAの組み込みに必要な物質がインテグラーゼです。
4. HIVの部品(RNA、タンパク、酵素など)の合成
HIVのDNAは、核の中から自分のタンパクやRNAを作るように命令します。すると免疫細胞内で、HIVのRNAとタンパク、逆転写酵素などが作られます。
※詳しくは、免疫細胞中のRNAポリメラーゼによってmRNAに転写され、mRNAが翻訳され、HIVのタンパクや酵素などが作られていきます。
5. HIVの成熟と免疫細胞からの脱出(血流への放出)
HIVのRNAやタンパク、酵素などが組み立てられて新しいHIVの塊ができます。その塊は最初のようなイガイガの構造となり、免疫細胞を飛び出していきます。免疫細胞から飛び出す際に、プロテアーゼというタンパク分解酵素により、タンパクを切断してはじめてHIVが成熟して飛び出すことができます。
(免疫細胞の細胞膜の一部をもらって外に飛び出していくので、免疫細胞と同じような膜の構造を引き継いでしまい、HIVの膜の構造を認識して攻撃する薬の開発が難しいようです。)
次のページは、HIVの薬の種類と特徴をご紹介します。
HIV薬の種類
HIVの薬は、前述のようなHIVが免疫細胞に感染して、増殖していく過程の1~5の流れを阻害することで、効果を示します。なお、4の薬はありません(正常細胞の通常のタンパク合成、RNA合成なども阻害してしまうため)以下、HIVの種類を一般名、略語、商品名、販売社名、承認年月(規格違いは最初の規格承認日)の順でご紹介します。
■ 侵入阻害剤(CCR5阻害剤)
免疫細胞にHIVが侵入するのを抑える薬。(前ページの1に作用)
マラビロク(MVC)、シーエルセントリ、ヴィーヴヘルスケア(2008/12)
■逆転写酵素阻害剤
HIVのRNAから、DNAが作られるのを阻害する薬。NRTIとNNRTIの2種類に分けられます。(2に作用)
・核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
・ジドブジン(AZT、ZDV)、レトロビル、ヴィーヴヘルスケア(1987/10)
・ジダノシン(ddl)、ヴァイデックスEC、ブリストル・マイヤーズ(2001/3)
・ラミブジン(3TC)、エピビル、ヴィーヴヘルスケア(1997/2)
・サニルブジン(d4T)、ブリストル・マイヤーズ(1997/7)
・ATZ/3CT、コンビビル(配合錠)、ヴィーヴヘルスケア(1999/6)
・アバカビル(ABC)、ザイアジェン、ヴィーヴヘルスケア(1999/9)
・ABC/3TC、エプジコム(配合錠)、ヴィーヴヘルスケア(2005/1)
・テノホビル(TDF)、ビリアード、日本たばこ産業・鳥居薬品(2004/3)
・エムトリシタビン(FTC)、エムトリバ(カプセル)、日本たばこ産業・鳥居薬品(2005/3)
・TDF/FTC、ツルバダ(配合錠)、日本たばこ産業・鳥居薬品(2005/3)
・非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
・ネビラピン(NVP)、ビラミューン、日本ベーリンガーインゲルハイム(1998/11)
・エファビレンツ(EFV)、ストックリン、MSD(1999/9)
・デラビルジンメシル塩酸(DLV)、レスクリプター、ファイザー・第一三共(20000/2)
・エトラビリン(ETR)、インテレンス、ヤンセンファーマ(2008/12)
■インテグラーゼ阻害薬
HIVのDNAが、免疫細胞のDNAに組み込まれるのを阻害する薬。(3に作用)
・ラルテグラビルカリウム(RAL)、アイセントレス、MSD(2008/6)
■プロテアーゼ阻害薬(PI)
HIVの成熟と免疫細胞から出ていくのを阻害する薬。(5に作用)
・インジナビル(IDV)、クリキシバン、MSD(1997/3)
・サキナビル(SQV)、インビラーゼ、中外製薬(1997/9)
・リトナビル(RTV)、ノービア、アボットジャパン(1999/9)
・ネルフィナビル(NFV)、ビラセプト、日本たばこ産業・鳥居薬品(1998/3)
・ロピナビル・リトナビル配合剤(LPV/RTV)、カレトラ、アボットジャパン(2009/9)
・アタザナビル(ATV)、レイアタッツ、ブリストル・マイヤーズ(2003/12)
・ホスアンプレナビル(FPV)、レクシヴァ、ヴィーヴヘルスケア(2005/1)
・ダルナビル(DRV)、プリジスタ(300mg錠)、プリジスタナイーブ(400mg錠)、ヤンセンファーマ(2007/11、2009/8)
以上が、2010年11月現在に日本で承認されて使われている薬剤です。それぞれの薬の使用方法や副作用については、「HIV薬の副作用と注意点」をご覧下さい。
参考資料
- HIV感染症「治療の手引き」第14版、HIV感染治療研究会
- MSDホームページ「医療関係者向け、感染症ページ」