犬の足や歩き方にはいろいろな種類がある
歩き方によって犬の心理は異なるかも?
退化した親指
脚の短い犬種が存在するということは、犬が人間に飼い馴らされた馴化現象のひとつ。
中には後ろ脚にも狼爪がある犬がいますが、伸び過ぎた時に肉に食い込んでしまったり(犬の爪は弧を描いて伸びるため)、ケガをするようなこともあるので、生まれてすぐに切除されてしまうのが一般的。つまり、前足は指が5本、後ろ足は指が4本というのがもっとも多いケースです。しかし、グレート・ピレニーズやブリアードのように後ろ脚に2本の狼爪があることがスタンダード上求められている犬種もいます。
足の裏の黒くぷにぷにした部分は俗に「パッド」と呼んでいますが、指の裏側にある4つの豆みたいな形をしたところ(指球)は人間で言うところの指の部分。その下にある丸三角形をした手の平のように思える部分(前足では掌球/掌肉球、後ろ足では遮球/遮肉球)は指の付け根あたりに相当します。前脚では足の裏より少し高い位置にもう一つ小さなパッドがあり(手根球)、手首あたりと考えていいでしょう。これらのパッドは皮膚の角質層が変化したもので、脂肪や弾性繊維に富んでおり、衝撃を吸収するクッションのような役目をしています。ちなみに、犬の爪は猫の爪のように必要のない時は内側に隠しておくことはできず、ずっと外に出っぱなしの状態。走ったり、岩山を登ったりする時にスパイクのような役目をします。
このように爪先立ちの歩き方をする動物を「趾行動物」と言いますが、特に速く走る時などは有利で、彼らが狩りをする必然性から生まれた歩き方と考えることもできます。陸上競技の短距離走では、より速く走るために踵を浮かして爪先立ちで走る選手がいることを考えると、理にかなった走法と言えるのでしょう。これに対して踵までぺたっと地について歩く動物を「蹠行動物」と言い、立った時に安定性がある反面、速く走るには不利となります。
犬の肩は横には開かない
犬の骨格の話でもうひとつ。人間と犬とでは肩甲骨がついている位置が違います。犬の場合は、首の付け根の両側に、体に対して密着するような形でついているので、腕を前後に動かすのは楽なのですが、人間のように真横に広げることはできないのです。ですから、無理に前脚を横に開かせることは犬にとっては苦痛。特に子犬はまだ成長段階にあり、骨格もしっかりとできあがってはいませんから、一緒に遊ぶ時などご注意ください。また、肩に限らず体全体の関節について、子犬ではパピーラキシティと呼ばれる関節の緩みがありますが、これは成長の段階においてごく自然なこと。柔らかいからとあまり無理をさせ過ぎませんように。健康管理という側面からは、子犬時代のみならず、愛犬の各関節がどの程度の柔らかさ・硬さなのか、動かせる範囲はどの程度なのかということを日頃から把握しておくことも大切です。
「歩き」から「走り」まで、呼び方いろいろ
犬の歩き方や走り方にもいろいろな名前がついています。以下、文字だけで歩き方を説明するのは難しいと思いますが、代表的なものをいくつか挙げてみましょう。走るスピードなどによって、脚を動かす順番が微妙に違うのです。1:ウォーク(Walk/常歩)
普通のゆっくりとした歩き方。たとえば、右前脚→左後ろ脚→左前脚→右後ろ脚というように、対角にある脚の順番で脚を上げて、下ろす。
2:トロット(Trot/速歩)
いわゆる速足。対角にある脚(右脚に対して左後ろ脚というように)が同時に地を離れ、同時に着地する。
3:キャンター(Canter)
軽く走る感じ。脚を動かす順番はウォークに近い。
4:ギャロップ(Gallop/襲歩)
犬が全力で走っている時の走り方。
バランス感覚は学習できる
車に慣れさせるためのコツがあります
生まれてまだ間もない子犬を見ていると、よろよろと歩き、すぐに転んでしまいます。それはまだ平衡覚が未発達なせい。平衡覚が発達し、ちゃんとしっかり歩けるようになるのは生後十週齢を過ぎた頃からです(M. W. Fox, 1965)。
平衡覚というと連想するのが車酔い。犬は車に酔いやすいというのはよく知られていますが、これは学習を重ねることで強化することが可能な感覚なので、トレーニング次第では車大好きのコに育てることもできます(ただし、個体差がありますのでトレーニングをしてもどうしても車に慣れないコもいます)。車に慣らす時には、最初は車のそばで一緒に遊んでみる⇒エンジンをかけず、お気に入りのおもちゃで遊んだりしながら車に短い時間だけ乗せてみる⇒エンジンを短い時間だけかけて乗せてみる⇒慣れてきたら短い距離を走ってみる⇒徐々に距離を延ばす、というふうに少しずつ段階を踏んでトレーニングしてみてください。
出かける時には、なるべく愛犬が楽しいと思えるような場所へ連れて行くのがベスト。いきなり動物病院など愛犬が不安を感じるような場所へ連れて行ってしまうと、車=イヤな場所へ連れて行かれる、というイメージができてしまい、精神的な影響からそれだけで酔ってしまうようなコもいますからご注意を。
たった一つの遺伝子変異から短い脚の犬達が生まれた?
イヌゲノムの研究によると、ある一つの遺伝子変異が短い脚の犬達を誕生させたのだとか。
アメリカにある国立ヒトゲノム研究所の研究によると、脚の短い犬95頭を含む835頭の犬の遺伝子を調べたところ、ある一つの遺伝子の変異が短い脚の犬を生んだことがわかった、というのです。この研究結果は昨年の夏に科学雑誌「Science」のOnline版に発表され、他メディアでも流れましたので、記憶に新しい人もいることでしょう。
その研究によれば、研究対象となった短脚犬種すべてが線維芽細胞増殖因子-4と呼ばれるタンパク質をつくる遺伝子の配列が余分にあったそうです。この遺伝子が動き出すと、骨が長く伸びる前に骨化が始まって、結果的に骨が短い、つまり脚が短い犬が出現するのだとか。
ダックスフンドの歴史を見ると、古代エジプト時代の壁画に彼らとよく似た犬の姿が見られるものもあり、本当の起源はどこにあるのか?とロマンをかきたてる部分ですが、このような遺伝子が存在するのであれば、元々脚の長かった犬の祖先達を無理に脚が短くなるように人間がつくり出したと言うより、遺伝子のいたずらでたまたま脚が短くなった犬達を土台に、人間がより脚の短い犬をつくり出した、と言うほうが正解なのかもしれませんね。
心理が歩き方に出ることもある
さて、最後には歩き方で犬の心理がちょっと読めることもあるというお話を。散歩の途中、向こうから知らない犬がやって来ました。その犬に気づくと、タロウは途端に歩き方がゆっくりになり、同時に動作もノロノロとした感じになってしまいました。リードを引いてみても少し歩いてはまた止まり、なかなか歩こうとしません。どうしてしまったのでしょう?
これはカーミングシグナルの一つと考えることができ、相手の犬に対して自分が敵意のないことを示したり、相手を落ち着かせようとする意味もあります。
散歩を続けていると、また違う犬が向こうからやって来ました。タロウはその犬とすれ違う際、まるで弧を描くように通り過ぎました。この歩き方に意味はあるのでしょうか?
これも同じくカーミングシグナルの一つと言えます。相手に対して自分が敵意をもっていないことを示し、無事にその場を通り過ごそうとしているのです。
呼んでもなかなか戻ってこないことにしびれをきらし、つい声を荒げて愛犬の名前を呼んだとします。愛犬が戻って来たのはいいものの、途中からのろのろと歩き出したりしたら、もしかしたらあなた自身に「そんなに怒らずにもうちょっと落ち着いてよ」と言っているのかもしれません。歩き方一つをとっても、愛犬を観察するというのは結構面白いものですよ。
参考資料:
「National Human Genome Research Institute」
「犬の用語辞典」大野淳一著/誠文堂新光社
【関連記事】