サイフォンコーヒーと超厚切りトースト
ハリオ製のサイフォン。ハロゲンの美しい光に照らされて泡が踊る光景を眺めるだけで、心が落ち着きます。
食後のコーヒーを楽しもうと、とんかつパートの扉を閉めて純喫茶パートに歩いていくと、コーヒーのふくよかな香りに包まれました。サイフォンを加熱するハロゲンの輝き。フラスコへと上昇していくお湯の中で踊る小さな泡。今まで自分がどれだけ喫茶空間というものを愛してきたか、あらためて確認する瞬間です。
ナラ材の美しいカウンターで迎えてくれるのは滝口博子さん。カフエマメヒコのオープン当初からレシピの監修を手がけ、多数の人々の舌を魅了してきた頼もしい存在です。
そんな彼女には、忙しい渋谷店で若いスタッフといっしょに立ち働くよりも、じっくりと料理を試作したり、お客さまと向かい合っておもてなしに専念できる自分の場所を持ってもらいたい、というのが井川さんの考えでした。
一皿のトーストに、こまやかなおもてなしの心をこめて
滝口博子さんのきびきびとした的確な動作には、長年、おいしいものを真剣に作ってきた人の美しさがにじみ出ています。
カウンターに座って小豆トーストを注文すると、滝口さんは奥のパン工房の釜で焼きあげられた長い角食パンをとりだしました。目の前でたっぷり5cmもの厚さにスライスして耳を薄く落とし、二段焼き網にのせてトーストします。
「トーストは焼き網で焼くのがいちばんおいしい。水分を保ったまま、外側はぱりっと、内側はしっとり焼けるんですよ」と滝口さん。
何もつけずにこのまま味わってもおいしい食パン。その作り方は茨城の小さな田舎町にスタッフみんなで足を運び、古くからあるパン屋さんに懇願して教えていただいたもの。
ごく普通のレシピの通りに、良い材料を使って丁寧に作ることで、どれだけおいしいものができてしまうかがよくわかった、と井川さんは語ります。逆に言えば、材料の質を下げたり、日もちさせるために保存料などの余計なものを添加したりで、どれだけおかしなことになってしまうかも浮き彫りになったようです。
(この茨城の小さなパン屋さんとマメヒコチームとの濃くて愉快な物語があるのですが…懸念した通り、書くスペースが足りません!)
厚さ5cm、表面さっくり、中はしっとりの極上トースト。すっきりした甘さの小豆はもちろん自家製。
軽いキツネ色に焼けたパン。バター。トーストとの相性を考えて炊きあげる、後味のすっきりした小豆。シンプルな三要素が最高の効果を発揮するおいしさを味わっていると、頃合いをみはからって焼きたてのパンの耳がサーブされました。
まず、超厚切りパンのふかふかの食感を楽しんでから、さくっとした耳を焼きたての状態で楽しめるよう、いっぺんにサーブせずに途中で出してくれるのです。
「食べることを大切にしてほしい」と滝口さん。
「たとえ一杯のコーヒーでも、てっとり早くすませるのと、時間と空間をゆっくり楽しみながら味わうのとでは全く違いますよね」
その寛ぎの空間づくりは、次ページで。