妊娠の基礎知識/妊娠・出産に関する社会問題

体外受精 ノーベル賞の影響は?(2ページ目)

10月4日、体外受精の産みの親のひとりであるロバート・エドワーズ博士がノーベル医学生理学賞を受賞。論争の多い生殖補助医療は、これで節目を迎える!?

河合 蘭

執筆者:河合 蘭

妊娠・出産ガイド

今なお残る偏見

これだけ体外受精が増えた今でも、違和感を感じる人は少なくありません。不妊治療をしているご本人たちでも、できれば自然妊娠で子どもを持ちたかったという想いは自然な感情としてあります。

「生まれた子どもには体外受精での妊娠だったと言わない」と言う人も少なくありません。また、高齢の方は特に違和感を持つことが多いので「おばあちゃんには内緒です」と言う方もいます。


かつては「試験管ベビー」と呼ばれた

体外受精が始まったころ「試験管ベビー」という言い方がされたので、より奇妙な印象が広がってしまったのかもしれません。

でも本当は、通常の体外受精は基本的に卵子と精子が出会う場所が違うだけで、うまく妊娠に至るかどうかはその細胞の持っている力によります。体外受精で生まれた第一号の赤ちゃんであるルイーズ・ブラウンさんは、当初「体外受精でできた女性は子どもを持てないだろう」と言われたそうですがこれは何の根拠もない憶測で、ブラウンさんも、やはり体外受精だったその妹さんも、2人ともすでに母親になっています。


子宮や卵巣は特別な場所

胃腸がうまく消化できないため治療することには誰も偏見はもたないのに、生殖器が子どもを生み出す行程に医療の手が加わると「神の領域に手を出した」と人は本能的に感じてしまうようです。不妊治療のつらさには、お金や通院の手間だけではなくこうした問題もあります。

体外受精がもたらしたものがメリットだけではないことは事実です。しかし、時間を巻き戻すことはできません、世界に普及したこの技術についてこれからすべきは非難ではなく、どうしたら一番いい形でこの技術とつきあえるか考えることではないでしょうか。



曖昧な態度を続ける日本に風は吹くか

体外受精が抱える課題には、まず卵子提供など倫理的な問題があります。規制の厳しい国や、日本のように法制化を先送りして曖昧な態度を続けてきた国が、今回の受賞を受けて再考を迫られるのはあり得ることです。

現在は、国によってあまりにも規制がまちまちな状態。ただし自国ではできないことも他の国へ行けばできるので、日本女性も渡航が増えていますし、欧州などではずいぶんと国境を越えた体外受精があるようです。


増え続ける実施件数 歯止めは必要

また一方では、誰がどこまでこの高額医療を負担していくのかという問題もあります。ごく一般的な夫婦間の体外受精であっても、体外受精には多額のお金がかかります。金銭的事情で体外受精が受けられない方が出ることはひとりひとりのレベルで見ればあってほしくないことですが、体外受精の総件数はというと、世界的にうなぎ登りの状態にあります。

体外受精の増加は高齢出産の増加と強く結びついています。若い人のあいだにも性感染症による不妊が増えており、そうしたことに目を向けた「不妊予防」もとても大切でしょう。

そして体外受精をくり返す治療は、お金だけではなく精神的にも大変です。治療を受ける人が追いつめられて自分たちの限度を超えてしまわないように、体外受精の現場には、子どものいない人生も考えられるゆとりのようなものも必要かもしれません。


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