生活習慣病/高脂血症・高コレステロール血症

「高コレステロールの方が長生き」は本当か(2ページ目)

報道でも取り上げられていますが、血中コレステロールに関して論争が起きています。簡単にいうとコレステロールは薬剤を用いて下げるべきという意見と、下げても寿命がのびないのでそのままでよいという意見です。両者が噛み合わない理由と、高コレステロールの人がどうすべきかについて、わかりやすく解説します。

西園寺 克

執筆者:西園寺 克

医師 / 感染症・健康情報ガイド


研究結果が真逆な理由……「観察試験」と「介入試験」の違い

J Curve効果

「Jカーブ効果」を図に表すと、このようになります。

数式や数値を使った方が説明しやすいのですが、あえて使わずに説明します。研究に用いられる実験には、実験スタート時に、あらかじめ何らかの指標となる数値で人を分けてから経過を見るだけの「観察試験」という方法と、実際に薬剤などを投与して変化を見る「介入試験」の2つがあります。2つの違いは以下の通りです。

■観察試験
すでにある生活習慣を解析したいときに良く用いられる方法で、今回話題となっている結果を導いた研究では、この方法が使われました。観察試験では、薬剤の投与などの働きかけは行わず、その集団を自然な状態のまま、文字通り「観察」します。

結果を解析する際の評価方法の一つに、「総死亡率」という指標があります。こちらも意味も文字通りで、観察の対象となっていた集団全体の死亡率を見ます。観察試験期間内の死亡率が低かった場合、実際にその人たちが40代の集団であれ、60代の集団であれ、実際にその人たちが何歳まで生きたかを見届ける必要はなく、「その集団は長寿だった」と結論づけられます。

総死亡率の解析結果では、「J-Curve効果」が良く認められます。例えば肥満度に関しては、痩せていても肥満でも死亡率が高くなります。コレステロールに関しても同様のJ-Curve効果があります。極端に低すぎても高すぎても、死亡率は高くなってしまうのです。J-Curveの底になる、総死亡率がもっとも低いコレステロール値は、「ほどほどよりもやや高め」という傾向があるようですが、Jカーブなので、「高コレステロールなほど長生き」というわけではありません。

■介入試験
一定の条件の集団を見守る「観察試験」と違い、薬剤を用いて疾患の発症を減らす臨床試験を行って結果を見る方法を、「介入試験」と呼びます。従来のコレステロールを下げるべきという方針は、この介入試験に基づく考えです。

介入試験は、実際に人体に薬剤投与という影響を加えるので、倫理的な問題を含む可能性があり、公的機関に届け出を行ってから実施する必要があります。評価方法も事前に公表します。これまで実施されたコレステロールを下げる薬の介入試験では、コレステロールを下げることで、血管が詰まることによる疾患が減少させられるという結果が出ています。この点で、コレステロールをほどよく下げるのは、健康管理に有効ということがわかります。

一方で、介入試験は発表された結果を第三者が解析することが可能という特徴も持っています。上記の結果を第三者が客観的に評価した場合、「コレステロール以外の危険因子ももっと考慮すべきだ」という視点での解析も可能です。冒頭で述べたように、危険因子はコレステロール以外にもさまざまなものがあるからです。この違った視点から導き出されたものの一つが、今回発表された研究結果なのです。

次のページでは、結局、高コレステロールの人は何をすればよいのかを解説します。
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