駅開業以来、
川崎市の副都心として開発されてきた街
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小田急線は東京メトロ千代田線と乗り入れており、都心へも直通 |
快速急行で新宿まで20分強、川崎市麻生区にある新百合ヶ丘駅は当初から川崎市の主導で街作りが進められてきた街です。駅自体が登場したのはお隣百合ヶ丘駅から遅れること14年、1974年です。多摩線開業に伴ってできた新しい駅で、すでに当時の住宅公団による百合ヶ丘団地で知られていた百合ヶ丘の隣でもあることから新百合ヶ丘と名づけられたそうで、由来を聞くとちょっと脱力してしまいます。しかし、その後の発展は百合ヶ丘なんのそのと言ったところ。百合ヶ丘の静かな駅前と比べると、新百合ヶ丘は驚くほどの賑わいとなっています。
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正月早々の取材だったため、店舗は開いておらず。場所は変わったものの、店自体はずいぶん昔から駅前にあった |
さて、川崎市が新百合ヶ丘開発にあたって掲げたのは川崎に次ぐ、市の副都心としての発展です。具体的には駅開業後すぐから地元地権者との間に総合開発協議会が作られ、土地区画整理事業が始まり、駅周辺については1977年~1984年に施行されています。このとき、街作りの方向として掲げられたのは「農住都市」。住宅だけでなく、従来からあった農業も並存する街ということでしょうか、実際、駅近くには地元の農業者が作った産品を販売する直売所もあり、ここは住宅オンリーの街でないことがよく分かります。
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駅北口には区役所をはじめ、公共機関が集まっており、各種手配などに便利 |
1982年に麻生区が多摩区が分区、誕生すると新百合ヶ丘駅近くに庁舎が開設され、1985年には文化センター、消防署などの公共施設、1990年代には駅前の大規模商業施設得る見ロード、オーパその他の商業施設が相次いで進出、1998年には都市景観大賞、1999年には都市計画学会賞受賞など、街の形がどんどん整えられ、緑濃い丘陵地は見る見る今の姿になっていったのです。ちなみに私が最初に新百合ヶ丘を訪ねたのは1988年のことで、まだ商業施設は形もなく、閑散として駅前のペデストリアンデッキの彫刻が妙に大きく見えたものです。
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川崎市アートセンター。劇場、ミニシアターを備え、芸術の街しんゆりのシンボル的な存在に |
その後も開発は続き、最近では2007年に南口に昭和音楽大学が移転、開校、同年には北口の丘陵地域の区画整理が一段落、川崎市アートセンターや大規模マンション、住宅、クリニックモールなどが登場、2008年には駅の改装終了と、街は今も表情を変え続けています。
新百合ヶ丘駅周辺概念図
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新百合ヶ丘駅と周辺との位置関係。本文に登場する主なスポット、駅前の商業施設を表示してある |
古くから開発されてきた南口
商業エリアからペデストリアンデッキで住宅街へ
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駅前のメインストリートにはいつも人通りが絶えない |
続いて、実際の街の様子を見ていきましょう。まずは駅南口。駅からは新百合ヶ丘のメインストリートとも言うべきペデストリアンデッキが街のそこここに伸び、その両側には大型商業施設、ビルなどが並んでいます。主要な商業施設の大半はこの周辺に集まっているのです。ペデストリアンデッキの下はバスターミナルやタクシー乗り場など。車と人の流れが全く別になったまま住宅街に至るので、子ども連れにも安心な街というわけです。
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買い物、外食に映画などの娯楽はすべて駅前で揃う。ちょうど、お正月休み中だったせいもあり、子ども連れのファミリーが目に付いた |
歩いていて目に付いたのは小中学生くらいの子どもやベビーカーを押したファミリー。駅近くには予備校などもあり、地域に子どものいる家庭が多いことが推察されます。
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南口から少し歩いた当たりの住宅街。一戸建てが中心で、住所で言えば上麻生、奥にいって王禅寺西、王禅寺東、王禅寺などといったところ |
ペデストリアンデッキを抜けてたどり着くのは一戸建てメインの住宅街。傾斜はありますが、北口の高低差に比べれば比較的なだらかな印象で、北口よりも早く開発されてきたため、築年数の経った住宅が目につきます。特に幹線道路などがないためか、交通量は少なく、本当に静か。緑の豊かな庭のある家も目につきました。
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開放的な雰囲気の昭和音楽大学。ベンチなどもあり、公園のようにも見える |
また、2007年に開校した昭和音楽大学はオープンな敷地が、芸術の街を目指すこの街らしいところ。校内には本格的な劇場もあり、身近にコンサートやオペラが楽しめるとか。新百合ヶ丘では1995年からKAWASAKIしんゆり映画祭が、1986年からは麻生音楽祭が行われており、音楽、映画などが趣味という人には暮らして楽しい場所といえそうです。
丘陵地も多い北口
駅を離れると自然の残る一戸建てエリアへ
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駅から10分ちょっと歩き、高台から周囲を眺めるとこんな感じ。一戸建て、マンション、賃貸アパート、社宅などが入り混じっているようだ |
反対側の北口はここ数年で開発が進んだエリア。このエリアでは小田急線と平行して走る津久井道(世田谷通りから多摩川までは世田谷通り)を越えた地域が新しく開かれてエリアで、住所で言えば万福寺あたり。丘陵地が切り開かれ、駅に近いところには大規模マンション、少し離れたところには一戸建てがどんどん建てられており、高台から見ると斜面にぎっしり住宅が建ち並んでいることが分かります。斜面の向きにも寄りますが、日当たりのよい高台は気持ちが良さそうです。
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丘陵の傾斜地を生かした万福寺さとやま公園。公園内から住宅を眺めるとまるで山の中の別荘地のように見える |
一戸建て住宅街の中には複数台分の駐車場を備えたお屋敷街もあり、ウォッチングして歩くのも楽しいところ。また、北口の丘陵地には自然をそのままに残した公園がいくつかあり、ビルの多い駅前からほんの10分ちょっとで別世界の趣き。麻生区は川崎市の中でも緑の多いところで、市平均29.2%に対し、53.2%(川崎総合計画 2005年より)と言いますが、それも納得。都会と郊外が隣り合うような街なのです。
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駅売店で見かけたこの街のスイーツを紹介する書籍。地元では売れているらしく、同じエリアのおいしいお店ガイドなども売られている |
ちなみに新百合ヶ丘は風俗営業禁止区域となっており、風俗営業はもちろん、パチンコ店も北口に1軒あるだけです。ファミリーが多い街のためか、ファーストフードはありますが、シングル向きの飲食店も少なく、その点はちょっと不便かもしれません。また、飲食店に関しては住宅街の中に全国的にも有名なケーキ屋さん、テレビドラマにも登場した和食店など、気の利いた店もあるにはありますが、街の歴史が浅いこともあり、非常に充実しているとは言いがたいのが本当のところ。これからの変化を期待したいものです。
続いて次のページでは小田急線新百合ヶ丘の住宅事情、住宅価格を見ていきましょう。