経口薬
1型糖尿病はインスリンを分泌するすい臓のランゲルハンス島・ベータ細胞が自分自身の免疫細胞によって壊されてしまう疾患です。インスリンの絶対量が不足しますから、生きるために治療の最初からインスリン注射が欠かせません。1型糖尿病のことを以前は「インスリン依存型糖尿病」と言っていたのはこのためです。
そして、2型糖尿病が進行して、やがてインスリン注射が必要になっても2型はやはり「インスリン非依存型糖尿病」でした。この辺りの言葉の遣い方が混乱を招いたので、今は「依存型」「非依存型」は使わないようになっています。インスリンが必要かどうかではなく、病因の違いによって糖尿病を分類しているのです。1型と2型は全く違う原因で起る糖尿病なのです。
1型糖尿病はもうインスリンを作れないので、インスリン分泌を刺激するSU剤などは役に立ちませんから決して使われません。しかし、インスリンの作用を強める(あるいは正常化する)薬ならば意味がありそうですね。それらの効果があるのがビグアナイド薬とかチアゾリジン薬といわれる2型の経口薬なのです。
もし、1型糖尿病の人がインスリンの欠乏だけでなく、インスリンが十分に作用しない(これをインスリン抵抗性といいます)ことがあればいかがでしょうか? 実は1型糖尿病の進行にはインスリン抵抗性は思った以上に大きな役割を果しているという研究もあるのです。(Diabetes Metab Res Rev 18:192-200.2002)
インスリン抵抗性は肥満と関連することはよく知られていますが、他にも高血圧、高い中性脂肪(血中脂質)、HDL(善玉)コレステロール値低下、そして2型糖尿病などがあります。インスリン抵抗性改善についてはメトホルミン(一般名)のようなビグアナイド薬が古い歴史を持っていますから研究も実施も多くあります。
ビグアナイド薬がどのような機序で血糖値を下げるのかはまだ全部は解明されていません。ただ、肝臓からのブドウ糖放出を抑え、インスリン感受性を高めることは分かっています。通常は2型糖尿病に使われる経口薬ですが、1型糖尿病にも30年以上前から使われることがあるのです。
日本の研究は栗原内科、栗原義夫医師らが行ったもので、平均年齢52歳の男女22人の1型糖尿病の患者で12ヵ月間インスリンとビグアナイド薬の併用を追跡したものです。これによると当初の平均A1C 8%が9ヵ月に7.6%、12ヵ月後には7.7%と低下しました。この間インスリンの増加は無く、体重の変化もありませんでした。
米国の論文には1型の青少年の男女にビグアナイド薬を併用して好成績を収めたものがあります。インスリンの作用を高めるため、インスリンの投与量が減ることもあるようです。
ビグアナイド薬は胃のむかつきや下痢、などの副作用がありますから、全ての人に向くわけではありません。ただ、血糖コントロールの悪い1型にインスリンとの併用が勧められるケースが増えると思いますから勉強しておいてください。2型糖尿病のインスリン治療には既に併用されていることがあります。