心臓・血管・血液の病気/心不全・不整脈・心房細動

心不全の原因・メカニズム

心不全は心臓が血液を全身へ十分に送れない状態を指す言葉。「心不全」という病気ではありません。左心不全と右心不全、収縮不全と拡張不全、急性不全と慢性不全に分けられます。原因と併せてわかりやすく解説しましょう。

米田 正始

執筆者:米田 正始

心臓血管外科専門医 / 心臓病ガイド

心不全とは

心不全とは、心臓が血液を全身へ十分に送れない状態をいいます。病気の状態の名前であり、病気の名前ではありません。高齢化社会を迎え、心不全は増えています。

心不全の種類

左心系と右心系undefinedundefined左心系が心不全になる場合と右心系が心不全になる場合の症状や状態は異なりますし治療法も異なる部分があります。

左心系と右心系  左心系が心不全になる場合と右心系が心不全になる場合の症状や状態は異なりますし治療法も異なる部分があります。

一言で「心不全」といっても種類は様々。心不全のタイプには、さまざまな分類法があります。

A: 病気が起こる部位による分類
左心不全(左心室や左心房などがやられる)
右心不全(右心室や右心房などがやられる)

B: 病気が影響する働きによる分類
収縮不全(血液を送り出す機能が落ちる)
拡張不全(次に送る血液を吸い込む機能が落ちる)

C: 病気が起こるスピードによる分類
急性(何時間何日間という短時間に起こる)
慢性(何週間何カ月かけてゆっくり起こる)

など。それぞれに原因やメカニズムがあり、症状や治療法も異なってきます。以下で詳しくご紹介しましょう。

A: 左心不全・右心不全

左心不全では、左心系つまり大動脈、左心室や左心房あるいはそれらをつなぐ弁の病気によって肺から左心房への血液のもどりが妨げられ、肺に血液や水分が貯まります。そのため肺の力が落ちて息苦しくなります。

右心不全では右心系つまり肺動脈、右心室や右心房あるいはそれらをつなぐ弁の病気によって全身から右心房への血液のもどりが妨げられ、全身に血液や水分が貯まります。そのため肝臓がむくんで肝障害や、足がむくんで浮腫になったりします。

B: 収縮機能不全・拡張機能不全

心臓は血液を送り出す(収縮機能)だけでなく、次に送る血液を手前からくみ出す(拡張機能)いわば吸い上げポンプとしての働きもあり、どちらも大切です

心臓は血液を送り出す(収縮機能)だけでなく、次に送る血液を手前からくみ出す(拡張機能)いわば吸い上げポンプとしての働きもあり、どちらも大切です

収縮機能不全では心臓が血液を全身や肺へ十分に送れなくなるために障害が起こります。全身に血液を十分送れないと、全身の筋肉が弱ったり、腎臓の力が落ちて体内の余分な水分や塩分や老廃物を体外へ排出できにくくなります。

拡張機能不全では心臓とくに心室が次に送る血液を心房からうまく汲み上げることができず、心房にうっ血が起こります。そのため肺や全身の臓器にうっ血が起こります。

収縮不全と拡張不全が同時に起こることもよくあります。

C: 急性心不全・慢性心不全

心不全のもとの原因が急に起こる病気たとえば心筋梗塞などでは心不全も急速に進みますし、もとの原因がゆっくり起こる病気たとえばリウマチ性弁膜症では心不全も年月をかけて徐々に進みます。


心不全の原因

冠動脈の主なものを示します。図のように3つの系統があります

冠動脈の主なものを示します。図のように3つの系統があります

さまざまな疾患が心不全の原因となります。心臓そのものの病気も、心臓以外の病気も心不全を起こすことがあります。

まず心不全を起こす心臓の病気を挙げます。 左心不全や右心不全の他、収縮不全や拡張不全を起こすリスクもあります。

冠動脈疾患
冠動脈が動脈硬化によって狭窄(せまくなること、狭心症など)したり、閉塞(詰まること、心筋梗塞など)を起こすと、血液が心筋に届かなくなり、酸欠状態となって心筋は力が出せなくなります。進行すると心筋は破壊され死滅するため、心臓の力が落ちます。詳細は狭心症・心筋梗塞の項目をご参照下さい。

心臓弁膜症
心臓の弁のうちとくに重要な3つを示します。弁が壊れると心臓が壊れて行き、心不全となります

心臓の弁のうちとくに重要な3つを示します。弁が壊れると心臓が壊れて行き、心不全となります

心臓弁膜症では、弁が狭くなったり逆流することで心臓の負担が増え、心不全を起こすことがあります。大動脈弁、僧帽弁の故障で左心不全が、肺動脈弁や三尖弁の故障で右心不全が起こり易いですが、重症になれば一弁の故障だけでも両心不全が起こります。

先天性心疾患
心臓の先天異常で、心臓内の左右を隔てる壁に穴などがあれば、その穴を通った血液が再循環したり酸欠状態を引き起こして心臓の負担を増やし、心不全を起こすことがあります。たとえば心房中隔欠損症や心室中隔欠損症、あるいは共通房室弁、ファロー四徴症その他です。

不整脈
不整脈は心不全の原因の一つですが、心不全の結果として不整脈がでることもあります

不整脈は心不全の原因の一つですが、心不全の結果として不整脈がでることもあります

不整脈で特に脈拍が速すぎる「頻脈」や、遅すぎる「徐脈」では、心臓に無理がかかり心不全になります。頻脈ではたとえば心房細動や心房粗動、心室性期外収縮などで、徐脈では房室ブロックや洞結節不全症などで起こります。

心筋炎
心筋炎は細菌、ウイルス、その他による感染症によって発生します。心筋が壊れて心臓の力が低下します。

心筋症
心筋症では心筋が何らかの原因で壊れることで心不全となります。特発性心筋症では心筋そのものの問題で、続発性心筋症では上記の心疾患のために二次的に心筋症となって心不全が発生します。

肺高血圧症
肺高血圧症は心臓とくに右室・右房の右心系に大きな負担がかかり心不全を起こします

肺高血圧症は心臓とくに右室・右房の右心系に大きな負担がかかり心不全を起こします

左心系の疾患や、肺動脈そのものの病気によって肺動脈圧が高くなり、右心不全を起こします。肺高血圧症の中には血栓が肺動脈にできて右心室に負担がかかり右心不全を起こすこともあります。いわゆる肺塞栓症です。

収縮性心膜炎
心臓の周囲にある袋状の組織である心膜が病気のために厚く硬くなり心臓を外から締めつける形となって心不全の原因になります。


心不全の原因となる、心臓以外の病気

心臓以外の病気が原因となって心不全が起こるのは以下の病気の場合などがあります。

貧血
貧血は血液の中の赤血球(図)が足りない状態です。酸素を全身に運ぶ赤血球が不足すると、心臓が無理をします

貧血は血液の中の赤血球(図)が足りない状態です。酸素を全身に運ぶ赤血球が不足すると、心臓が無理をします

貧血では血液が運べる酸素量が減るため、心臓は血液拍出の回転数を上げて酸素運搬量を維持しようとします。次第に心臓は疲れて心不全になります。

甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンの過不足が心臓の適切な状態を変化させて心不全になります。このホルモンが多すぎれば心臓は刺激が多すぎて無理をし、ホルモンが少なすぎれば刺激も少なく心臓は力が出なくなります。

腎不全
体内の水分を十分には除去できないため、血液量が増え、心臓に負担がかかり心不全となります。

高血圧
高血圧は心臓を悪くします。家庭での血圧測定は大切です。とくに早朝の。

高血圧は心臓を悪くします。家庭での血圧測定は大切です。とくに早朝の血圧が有用です。

高血圧も心不全を引き起こします。高血圧では、それに打ち勝つため左心室の壁が厚くなり(肥厚)、硬くなり、拡張機能障害となって十分な血液を取り込めずに心不全となります。

加齢
加齢によっても、同様の拡張機能障害が起こることがあります。

■その他の原因
アミロイドと呼ばれる異常たんぱくが心筋に沈着して心不全となるアミロイドーシスや、ある種の寄生虫などでも心不全は起こります。

なお、体は心不全のときにそれをバックアップし補う、代償機構を備えています。
例えば心不全になり始めたとき、体の血液量を増やして送る量を維持しようとすします。これにはさまざまな体内ホルモンが活躍しています。関与するのはレニン・アンギオテンシン・アルドステロンなどのホルモンです。あるいは脈拍を増やして回数で稼ぐようにする働きもあります。これらの代償機構もやられてしまうと心不全がより悪化してしまうのです。

参考サイト: 心臓外科手術情報WEBの心筋症・心不全のページ 

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