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「寝る子は育つ」はそのままの意味で本当か?科学的根拠と睡眠の大切さ

【睡眠学会所属医師が解説】「寝る子は育つ」という言葉はそのままの意味で、確かな理由と根拠があります。睡眠時間が短く寝不足・睡眠不足の状態が続くと、成長ホルモンの分泌に影響したり、セロトニン減少により攻撃性が増していわゆる「キレやすい子」になったりと、心身の成長に影響します。睡眠の大切さをしっかり理解し、年齢別の理想の睡眠時間を確保するように努めましょう。

坪田 聡

執筆者:坪田 聡

医師 / 睡眠ガイド

乳幼児・小学生・中学生……子どもに必要な睡眠時間の目安

寝る子は育つ?子どもの睡眠と脳・体への影響

子どもの睡眠は、脳と体の発達にとても重要です


生まれたばかりの新生児は、1日中、眠ったり目覚めたりを繰り返しています。この時期の赤ちゃんは1日のおよそ3分の2を眠って過ごすのです。

大人のように夜にまとめて眠る「単相睡眠」に対し、寝たり起きたりを繰り返してとる睡眠を「多相睡眠」と呼びます。多くの動物が多相睡眠をとっていて、単相睡眠をとれるのは敵に襲われる心配のない大型肉食獣くらいです。

生まれた直後は体内時計が未熟なため、外界の昼夜リズムと関係なく1日が進行します。そのため、眠ったり目覚めたりが昼夜を問わず行われ、それに付き合うお母さんは寝不足に悩まされてしまうのです。しかし、次第に昼夜リズムや周囲の人との接触によって体内時計が発達し、生後4カ月ころから外界リズムと睡眠・覚醒のパターンが合うようになってきます

成長とともに、1日の総睡眠時間も短くなってきます。新生児は毎日16時間も眠っていますが、1歳になると13時間、2~3歳で12時間、3~5歳で11時間になります。学校へ行くようになると、学校生活や塾通い、友達関係などで、睡眠時間が削られていきます。

子どもの健全な成長のために望ましい睡眠時間は、小学校低学年で10時間、小学校中学年~中学生で9時間、高校生で8時間といわれています。「そんなに長く?」と思われるかもしれませんが、睡眠は心身の発達に不可欠なものですから、しっかり眠ることが大切なのです。
 

「寝る子は育つ」は本当! 深い睡眠時の成長ホルモン大量分泌

眠っている間に、脳と体が成長します

眠っている間に、脳と体が成長します


睡眠の内容にも、大人との違いが見られます。大人の睡眠は脳波の状態から、体が休むレム睡眠と脳が休むノンレム睡眠に分けられます。しかし、赤ちゃんではまだ脳波がはっきりしていないので、レム睡眠やノンレム睡眠の代わりに「動睡眠」と「静睡眠」に分けられます。

動睡眠のときには、顔や手足の筋肉がピクピク動いたり、呼吸が不規則になったりします。文字通り、動きが見られる睡眠状態というわけです。男の子の場合はオチンチンが硬くなったりもします。

このとき体は休息してグッタリ眠っている状態ですが、脳は活発に働いて神経ネットワークが発達します。新生児から乳児のころに全睡眠の半分を占めている動睡眠は、2歳頃になると大人と同じレム睡眠に変わり、時間も短くなっていきます。

一方、静睡眠のときには体や目玉は動かず、呼吸や脈拍もゆっくり規則的です。脳が休息して、グッスリ眠っている状態といえます。静睡眠は成長すると、ノンレム睡眠に変わってきます。

幼児期にはノンレム睡眠の中でも深い睡眠が増え、熟睡量は一生のうちで最も多くなります。寝ついてから3時間以内の深い睡眠中に、成長ホルモンが大量に分泌されます。子どもはこのホルモンのシャワーを浴びることで、体が急速に大きくなります。

思春期になると、睡眠中に性腺刺激ホルモンも分泌され始めます。このホルモンによって、性的な成熟が進みます。外から見ればただ眠っているだけですが、体の中ではいろいろなことが起こっているのです。
 

寝不足は「キレやすさ」にも影響……睡眠不足による成長障害

寝不足では、大人もキレやすくなりますが……

寝不足では、大人もキレやすくなりますが……


最近50年間で、日本の大人の睡眠時間は1時間も短くなりました。この間、子どもの夜型化もすすみ、睡眠時間が削られてきています。

日本小児保健協会の調査によると、夜10時以降に就床する3歳児の割合は、昭和55年に22%でしたが、平成2年には36%、平成12年は52%と過半数を超えてしまいました。

平成2年に行われたオーストラリアの調査では、夜10時以降に床に就く25~38カ月児(2歳1カ月~3歳2カ月児)はわずか4%でしたから、いかに日本の子ども達が夜更かしか分かります。

特に夜型の幼い子どもには、大きな問題が生じます。夜間の睡眠不足のため、幼稚園などの昼寝のときに起こさないと目覚めない子どもほど、指差しが遅く、話せる言葉の数が少ないことが分かっています。また、就寝時刻が遅い12カ月児は、言語理解とバイバイができず起床時刻が遅い20カ月児は、積み木2個を積むことができません。これらのことは、夜型の乳幼児は、精神運動の発達が遅れていることを示しています。

睡眠不足は、いわゆる「キレやすい子ども」の増加の原因でもあります。穏やかな心を保つためには、セロトニンという物質が重要です。攻撃性や衝動的な行動が目立つ人では、脳脊髄液の中のセロトニン関連物質が少ないことが知られています。

セロトニンはリズムがある運動をすると増えることがわかっています。夜更かしだと日中に時差ぼけ状態であまり運動しなくなるので、脳の中のセロトニンが減ってしまいます。そのため睡眠不足の子どもは、攻撃性が増したりイライラ感が強まったりしてキレやすくなるのです。
 

親の夜型生活リズムも影響? 子どもの睡眠は「しつけ不足」

深夜の買い物は、子どもの成長を邪魔します

深夜の買い物は、子どもの成長を邪魔します


どうして子ども達は、夜更かしするようになったのでしょうか? 夜遅くまで起きている理由を聞いたところ、「なんとなく」や「家族が起きているから」という答えが多くを占めました。

子どもは、夜になれば自然と眠るわけではありません。誤解を恐れずに言うと、子どもの夜型化の最大の原因は、「しつけ不足」と言えます。

子どもは、親の姿を見て育ちます。親が遅くまで起きている家庭の子どもは、就床時刻が遅い傾向があります。子どもの健やかな成長を願うのなら、子どもの眠るべき時刻に一緒に寝てあげるのがベスト。子どもが寝ついたら大人だけ起きても良いでしょうし、この際、大人も朝まで眠り、朝型人間になるのもいいかもしれません。少なくとも、家庭で睡眠の大切さを話し合い、子どもが布団に入る時刻を決めて、きちんと守るように家族で見守ってあげましょう。

なかなか眠ってくれない子どもには、「入眠儀式」を試してください。例えば、「歯磨き→おもちゃの片付け→パジャマに着替え→トイレ→ぬいぐるみにお休みと言う→家族にお休みを言う→本の読み聞かせ→明かりを消して添い寝」のように、眠るまでに決まったことをしてだんだん心の準備をするものです。家の中をあちこち移動するので、「お休みツアー」と呼ぶ人もいます。

さらに、「子どもの早起きをすすめる会」では、「夜更かしを防ぐ3つの基本」を提唱しています。

・ 朝の光を浴びて生体リズムを調整しましょう
・ 早起きと昼間の活動量を増やすことで、生活リズムを整えましょう
・ 子どもの睡眠環境を守るのは、大人の責任です

しっかり眠るためには、夜の生活を変えるだけでよいというものではありません。朝に目覚めたときから、すでに睡眠の準備が始まっています。1日の中でできることを家族で話し合い、少しずつ実行して、子どもが良い睡眠を取れるようにしていきましょう。
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