日本の食料自給率は、40%を切ってしまい、世界的な穀物不足等の問題を抱える中、私たち生活者は何をどうしたらよいのかと、不安になってしまいますよね。現代人の多くは都会的な便利な環境で暮らしています。その暮らし方を、一挙に昔の暮らし方に戻すことは不可能です。伝統的な暮らしの中にある自然に生かされるための節度を守り伝えられるように、一人ひとりができることから実践していくことが大切だと、私は考えています。

一人一人が実践できることのケーススタディとして、今回は「都市住民のプチ自給農」をキャッチフレーズに、食や農の問題をみんなで楽しく取り組めるプロジェクトを推進する「空畑(そらはた)クラブ」をご紹介します。「空畑クラブ」運営人 空庭(そらにわ)こと山内美陽子さんにお話をうかがいました。

都会生活者でも土を感じられる暮らしを

空庭カフェ
都心の中のビルの一室にある緑で癒される空間「空庭カフェ」
造園プランナーとして活躍する空庭さんは5年ほど前から、ビルやマンションなどが立ち並ぶ限られた都市空間でも緑や土のある暮らしを楽しもうと、そのコンセプトを「空庭」という表現で提案してきました。

例えば伝統的な日本庭園はすばらしいものですが、なかなか一般の人にはそのよさがわかりにくい、伝わりにくいのが現実です。もっと一般の人がわかりやすい生活に身近な庭を提案したいとの思いから、ビルや個人宅のベランダなど、限られた空間ではあるけれど、青い空に続く緑と土のある癒しの空間をデザインされています。また「都会で里山」をコンセプトにしたカフェ「谷町空庭」をオープンされました。

そして、今の日本が抱えている食や農業の問題を考えるうちに、これまで「空庭」では土の上をみてきたけれど、土の下にも目を向けていきたいという思いが広がり、昨年から「空庭」を変形した形で、「都市生活者のプチ自給農プロジェクト」として「空畑クラブ」も開始しました。

日々土に触れることで育まれる想像力

谷町空庭の空畑
「谷町空庭」の入るビルの屋上にもスローガーデンがあり、ここで毎月「空畑ベンキョウカイ」を開催しています。
例えば、最近では食育活動が活発になり、学校や地域の主催で農業体験等ができる機会も増えています。けれども遠方に出かけて農作業等を通じてよい体験や感動を得たとしても、また家に帰れば今まで通りの暮らし方に戻ってしまいがちで、それでは農体験は特別な世界の出来事となってしまいます。

今の社会では、生産と消費の現場の距離が離れすぎて、農家の後継者不足、重油の値上げ、休耕田など様々な問題は、正直言って都会に住む生活者には他人事になりがちです。私たちは、農家の方がどのような苦労をして食べ物を作り、どのような問題を抱えているのか、想像もせずに、毎日当たり前のようにたくさんの食べ物を、お金さえ払えば楽して手に入れることができるのです。

様々なメディアでこうした問題は取り上げられ、消費者も理屈ではどのような状況なのかはわかったているけれども、自分の問題として想像したり、肌で感じることは、なかなかできることではありません。

谷町空庭の空畑
スローガーデンの横には「空畑」があり、雑草を抜かない、ちょっと自然農法的な育て方をされています。
どんな些細な形であれ、日々の暮らしの中で農を感じられる活動を続けることで、例えば「自分で苦労して育てたトマトがおいしい!」と感じる。そんな出来事の積み重ねから、農に親しんでくれば、都市に住む私たちも、少しは農家の方々の思いを共有できる、そんな想像力が培われて行くのではないかというのが、空庭さんの思いです。

私も、常々「食育」などのイベントや講座に参加される方は、すでに食や教育に関心の高い人ばかりで、本当は関心のない人を引きつけるようなアプローチが必要だなと思うのですが、空庭さんの考える「トマトがおいしい」という感覚は、幅広い人たちの心に響くものだと思います。