硫化水素とは……毒性が高く、深刻な後遺症リスクも

硫化水素の危険性

硫黄と水素の無機化合物である硫化水素。自然界にも存在する危険性の高い気体です

硫化水素の作り方のようなものがネットなどを通じて一般に広まってしまい、2008年頃から硫化水素による自殺と、発生した硫化水素の巻き添えによる事故・被害が報じられた時期がありました。自死を目的として作った硫化水素によって脳に重い障害を負ってしまうケースもありますし、素人が不十分な知識で猛毒を作ろうとすることはさまざまな意味で非常に危険なことです。二次被害の規模も甚大です。今回は、硫化水素の特徴と被害を防ぐ方法をご紹介したいと思います。

猛毒の硫化水素ですが、人工的なものだけでなく、自然発生しているものもあります。温泉地などで観測されることもありますが、天然で毒性の高い硫化水素は、地底深くに閉じ込められています。生物の起源と推定されている微生物は、大昔は硫化水素で生命を維持していたと考えられているそうです。今でも海底火山から噴出する硫化水素で生きている生物がいます。

しかし酸素を吸って生きている地上の生物のほとんどは、高濃度の硫化水素を解毒することができません。濃度の濃い硫化水素を吸ってしまった場合は、細胞の中のミトコンドリアがエネルギーを作れず、窒息してしまったり、助かっても脳に重い後遺症を負ってしまうことがあります。
 

独特な異臭を持つ硫化水素……もっとも身近な硫化水素は口臭の原因にも

一つ幸いと言えそうなことは、危険なのに無臭の一酸化炭素などと違い、硫化水素は独特の異臭を持っている点です。最も身近な硫化水素は、なんと私たちの口の中にあります。溜まった歯垢の中で細菌が作り出す揮発性のガス。この成分の一つが硫化水素なのです。

ひどい悪臭と言われる硫化水素のイメージも、強い口臭からイメージできるかもしれませんが、口の中には他にも色々な成分があるので、もちろん口臭=硫化水素そのものの匂いではありません。大量になると猛毒の硫化水素が口の中にあるというのも、奇妙な感じがしますね。

それでは次に、硫化水素の危険性と匂いの見分け方について解説しましょう。
 

硫化水素被害防止のためには、異臭を無視しないことが大切

自然発生しているものであれ、人工的なものであれ、硫化水素の二次被害にあわないために大切なのは、硫化水素の異臭をわずかに感じる段階で、匂いを無視せずにすぐに避難することです。

硫化水素は「卵が腐った臭いがする」と報道されているようですが、品質管理が良い日本では、腐った卵の異臭をかぐ機会もなかなかないものです。

卵による食中毒の原因となるサルモネラ菌も硫化水素を産生する細菌ですが、これも体験する機会がほとんどないでしょう。
 

硫化水素の異臭は卵の腐った匂い? 匂いを安全に知る方法

非常に低濃度の硫化水素を安全に体験する方法を紹介します。固ゆでの茹で卵を作り、茹で上がったら黄身を露出しないように注意してすばやく殻を剥いて下さい。剥いた茹で卵を包丁で切って、切り口の黄身の臭いを嗅いでみましょう。非常に低濃度ですが、極めて安全に硫化水素の臭いを確認することができます。

ちなみに卵は人間にとって必要な必須アミノ酸が過不足なく含まれている優秀な食品ですが、この必須アミノ酸の一つである「メチオニン」という物質が硫黄を含んでいるのです。必須アミノ酸ではありませんが、硫黄を含むアミノ酸であるシステインも入っています。卵から硫化水素の匂いが発生するのは、硫黄を含むメチオニンとシステインが熱で分解するためと考えられます。

最後に、万一、硫化水素の発生に遭遇してしまった場合の正しい逃げ方、対処法について解説します。
 

硫化水素への対処法・正しい退避・避難の方法……風上、高所へ 

温泉地などで上記のような匂いを感じた場合はもちろんですが、集合住宅やホテルなどで、煙や火の気もないのに茹で卵を切った時のような異臭を感じたら、人工的に作られた硫化水素が発生している可能性も考えなくてはなりません。

硫化水素自殺などのように、密閉された部屋で人為的に高濃度の硫化水素を作られてしまった場合、部屋にいる人を素人が救い出す事は残念ながら絶対に不可能です。二次被害を広げないために、まずは現場から逃げましょう。

有毒ガスを避けるには風上に逃げるのが鉄則ですが、ビルの中では風上がどちらか分かりません。硫化水素は空気より比重が重いので、下に流れて行きます。建物の上へ避難した方が安全という事になります。

建物の構造によりますが、一度上の階へ行ってから逃げる経路を探しましょう。低層の建物で屋外で風通しが良い非常階段があれば、一度屋上に行ってから非常階段で逃げるのが安全です。地上に降りたら、硫化水素が溜まっている可能性があり、換気がよくない駐車場のような場所は避けて避難しましょう。

可能性は非常に低いですが、地下街で硫化水素の臭いを感じたら地上へ向かうことが大切です。

硫化水素の可能性があって消防関係が来てガスを確認した場合、ガスが拡散するまで一定時間、建物に入る事ができなくなります。消防の指示に従って行動しましょう。

また、もし現在あなた自身が精神的に非常につらい問題を抱えられている場合、厚生労働省のページで多くの電話相談窓口がまとめられています。地域によっては「こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)」に電話すれば、各都道府県・政令指定都市が実施している「こころの健康電話相談」等の相談機関につなげてもらえる仕組みもあります。該当地域以外の方は、「いのちの電話」、18歳までの子どもがかけられる「チャイルドライン」なども活用しましょう。新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科による「硫化水素自殺を考えているあなたへ」などのページもぜひご覧ください。
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