糖尿病発症の原因は遺伝のせいか?
親の自分が糖尿病だと、子どもにも遺伝してしまうのか……。糖尿病と遺伝の関係について、現在分かっていることは?
はっきり分かっているのは、ある人たちが「確かに」糖尿病になりやすい体質を持って生まれてくるということです。
貧困、飢餓などで母親の栄養状態が悪いと、胎児はインスリンが効きにくい体質(インスリン抵抗性)になる可能性があります。これは2型の病因の一つです。遺伝でもなく、DNAの塩基配列の変化でもないのに胎児期の低栄養状態が子供に受け継がれるのは、エピジェネティクスという考え方で説明されることが多くなりました。2世代前の祖母の妊娠時の栄養不良が、なんと孫娘の糖尿病発症に影響するかもしれないというびっくりするような報告もあります。ただし、これはネズミによる仮説ですから、私たちの祖母をうらみに思うにはまだ時期尚早です。ADA(アメリカ糖尿病協会)の『糖尿病と遺伝について』の考え方をご紹介しましょう。
なぜ糖尿病になるのか? 原因とメカニズム
生きるために絶対に必要なインスリン(ホルモン)が何らかの原因で分泌できなくなった1型糖尿病と、肥満・加齢・運動不足などによって少しずつ分泌不足、作用低下になる2型糖尿病とは明らかに病因は違います。しかし、1型・2型のどちらにも共通することがあります。それはいずれも発病する遺伝子を持っているということ。そして発病の引き金になる生活習慣などの「環境」があったことです。
まず、遺伝子だけでは不十分です。たとえば同一の遺伝子を持っている一卵性双生児の片方が1型糖尿病になったとしても、もう一方が1型糖尿病になる可能性は1/2以下です。研究者は40%以下としています。
ところが、一卵性双生児の片方が2型糖尿病になった場合は、4人のうち3人はもう一方も2型糖尿病になるそうです。2型糖尿病は遺伝リスクがとても大きいことが分かります。
1型糖尿病と遺伝
多くの1型糖尿病は両親からリスク因子を引き継いだと考えられています。更に民族の特性もあります。コーカジアン(白人)は1型の発症率が高いのです。でも、多くの人たちは高リスクであっても発症しません。研究者は何が引き金になるのか調べていますが、「これだ!」というものがまだ見つかりません。
天候すら影響しているかも知れません。北国の方が南の国よりも多く、寒い季節に1型の発症が増えます。風邪やインフルエンザのようなウイルスによる可能性があります。
あるウイルスがほとんどの人には「ちょっとした風邪」で済むものが、遺伝要因のある人には1型への引き金になる恐れがあります。以前、当サイトのあなたの一票というアンケート調査にて、私のサイト閲覧者のうち1型の人の誕生月を伺ったことがあります。1型の人は8月生れが多いという発表があったからです。これは、冬季の妊娠初期に母体が風邪などに感染したのでは?という仮説によるものでした。しかし、地中海のサルデニヤ島(イタリア)のような温暖なところでも特異的に1型が多いのですから複雑です。
離乳食のタイミングも関与しているかも知れません。新生児の消化管のバリアが未完成なので、食べ物のタンパク質のような異物がからだに入ってしまい、からだを守る免疫系が誤作動するのでは、という仮設です。
1型は原因不明の突然の発症のように思われていますが、1型の兄や妹などの近親者を調べてみると、かなりの年月にわたって1型糖尿病に関与するいろいろな「自己抗体」が血液中に発見されます。それでも発症に結びつく人もいれば、なぜか発症には至らない人もいます。
「自己抗体、autoantibody」というのは、からだに入ってきた原虫、バクテリア、ウイルスなどをやっつける免疫のタンパク質(抗体)が"悪玉化"して、自分自身のからだを攻撃してしまう形になったものを言います。1型糖尿病は自分自身でインスリン分泌を行うベータ細胞を壊してしまう病気です。