血圧の話はとても難しい言葉が出てきます。
訳しようがないのでお許しを。
なぜ高血圧になるのかは、じつはよく分かっていないのです。そこでよく本態性高血圧という病名を耳にしますが、これは「原因がはっきりとわからない」という表現でして、高血圧の95%が原因がよく分からないので本態性高血圧と呼ばれています。
原因はわからないけど高血圧になる仕組みはかなり解明されています。その中で本態性高血圧の中心的役割をはたしているのがレニン-アンジオテンシン系と呼ばれるものです。レニンというのは酵素で、血しょうタンパク質のアンジオテンシノゲンと反応して強力に血圧を上昇させる物質アンジオテンシン2を作ることが明らかになっています。
そこでこの血圧上昇物質アンジオテンシン2の生成を抑制する薬や作用を抑制する薬が作られました。ACE(エース)阻害薬というカテゴリーの降圧薬はアンジオテンシン2生成抑制作用をもっており、タイトルに使ったARB(エー・アール・ビー)はアンジオテンシン2の作用を抑制するものです。
こう書くとアンジオテンシンという物質はいかにも血圧を上げる悪玉みたいですが、ヒトの生存には欠かせない大切なものでもあるのです。
ヒトの祖先がマンモスやサーベルタイガーなどと戦っていた頃、細小血管を収縮させて切り傷からの出血を抑え、大量出血による血圧低下から血圧を上げて身を守っていたシステムがレニン-アンジオテンシン系です。ところがメタボのように内臓脂肪が増えたり、肥満、2型糖尿病、高血圧になりやすい生活になるとこの利点が裏目に出てしまいます。生活習慣病になると、かつてはからだを守っていたレニン-アンジオテンシン系が不必要に亢進して、血圧を上げてしまうからです。
血圧降下薬にはACE阻害薬やARBのようなレニン-アンジオテンシン系以外にも、心拍数を減少させて心収縮力を低下させて血圧を下げるベータ遮断薬や、末梢血管抵抗を減らして血圧を下げるカルシウム拮抗薬、体液量減少効果によって血圧を下げる降圧利尿薬などがあります。しかし、このACE阻害薬やARBは他の降下薬が出来ない仕組みで腎臓などの臓器を守るのです。つまりアンジオテンシン2という血圧を上げる物質(アミノ酸8個のペプチド)の作用を減らすのです。
糖尿病になると上腕で測る血圧が高くなるかなり前から腎臓の細小血管の血圧が高くなっています。アンジオテンシン2の作用です。これを直接計測することが出来ないのでタンパク尿や微量アルブミン尿を調べて腎臓のダメージを調べているのです。
ACE阻害薬やARBは当初は血圧降下薬として開発されましたが、このように脳や心臓、腎臓などのレニン-アンジオテンシン系から臓器を守ることが分かり、今日では非常に多く利用されています。ACE阻害薬は空咳などの副作用があるため、日本では高価なARBが年間5,000億円規模のダントツの売上げを見せています。
2009年に発表される日本の高血圧のガイドラインでも糖尿病で高血圧を合併しているときの第一選択薬として選ばれると思います。血圧が特に高くなくても、医師からARBやACE阻害薬の勧めがあったら、むげに断らないようにしましょう。
関連リンク
from All About[糖尿病]
from 日経BP セカンドステージ