1型の母親から生れた子供は、成人してから2型糖尿病になりやすい傾向があるという発表がありました。父親の1型は大丈夫です。何が問題なのでしょうか。
[The Lancet 2003;361:1861-1865]
この研究は少人数の調査ですから、事実というよりはひとつの問題提起と考えた方がよいでしょう。今までは1型の父親や母親から生れた子供の1型のリスクのみに関心がありましたが、2型のリスクとは意外な切り口です。2型糖尿病は遺伝的要因と環境要因(肥満、運動不足など)、加齢などが発症の引き金になりますが、1型糖尿病の遺伝性は5%前後とかなり低いものです。父親が1型の場合は若干リスクが高くなりますが、母親が25歳以上で出産した場合はリスクが下がります。
ところが『母親に1型があると子供が将来2型になりやすいようだ』という今回の研究は遺伝的リスクではありません。
胎児の時に1型糖尿病の母親の高血糖にさらされると、胎児の膵臓に負荷がかかって肥大し、まるで成人の肥満が2型糖尿病になるように、2型糖尿病のスイッチがオンになるのではと推測されています。
その可能性は否定できませんので、母親に1型糖尿病がある人は運動不足と肥満にならないように心がけるようにしましょう。
1型糖尿病は自分の免疫(体の防御力)が誤ってインスリンを作る膵臓のベータ細胞を壊してしまうものと考えられています。その原因は多因子で、まだ解明されていません。地域性と民族性の相違があるのは分かっています。たとえば、ヨーロッパではフィンランドに1型糖尿病が多く、スコットランドはなぜか少ないのです。また、コーカジアン(白人)に1型が多く、アジア人、アフリカ人、ヒスパニックには少ないのです。
両親が1型糖尿病だと子供はどの位リスクが高まるかというと、実はまったく不明です。