最近、不妊治療を行なっている方からの問い合わせで多く見られるのは「今、自分が病院で行なっている治療スケジュールや治療方針が一般的に正しいものなのかどうか?」ということです。不妊症の治療情報はかなり多く出回るようになりましたが、学会主導の新しい不妊治療ガイドラインもなく、まだまだ個々の病院がどのような方針でどのようなステップを踏んで治療を行なうのかがよくわかっていない実状があるからだと思います。
そして取材で各病院の院長先生に「貴院の治療スケジュールは?」と伺うと大きく3つに分かれます。
(1) タイミング指導から徐々にステップアップして治療を進める施設
(2) ステップアップ(註)を飛ばして体外受精や顕微授精などの高度生殖医療をいきなり導入するタイプ
(3) 上記の良い部分をうまく組み合わせて患者さんのニーズに合わせて治療しているタイプ。
さて上記の型を1つ1つ見ながら解説していきましょう。
(1)タイミング指導からステップアップ
これは不妊治療の基本的なスタイルです。不妊治療で最も高い妊娠率があるのがこの一番最初のタイミング療法です。自分の生活の乱れの是正や子供を作るということの医学的知識の確認をするだけでも大きな効果があります。そして妊娠しない場合、徐々に治療が進んできます。薬も経口のクロミッド療法(註)からHMG―HCG療法(註)へ変わってきますし、場合によっては人工授精に行きます。でも大抵の場合はここまでで約70~80%の患者さんが妊娠に至ります。期間として1年~2年ぐらいでしょうか。
「産婦人科で不妊治療もしています」という場合、上記のパターンが多いようです。よって人工授精を5~6回まで進んできたら次のステップ(ART 註)を考えるべきだと思います。ただ、産科が同じの場合は精神的につらい思いをするのでできれば産婦人科でも不妊外来の専用時間帯があるクリニック・病院を選ばれるといいのではないかと思います。妊娠に至らない場合、次のステップは専門クリニックへの紹介状を書いてもらうことになります。
★ステップアップ療法
まずはタイミング療法から徐々に治療を進めていく治療法。患者さんの身体の状況にあわせて治療の難易度が徐々に上がっていく。
★クロミッド療法
タイミング療法と組み合わせてクロミッドを投与して排卵を促す治療法
★HMG-HCG療法
卵子を大きくする作用のあるHMGと排卵作用のあるHCGを組み合わせて
治療する排卵誘発治療。
★ART(生殖補助技術)
体外受精(IVF)、顕微授精(ICSI)など高度な生殖医療技術のことの総称
(2)ステップアップを飛ばして体外受精や顕微授精などの高度生殖医療をいきなり導入するタイプ
最近、よくTVや雑誌に出てくる巨大不妊クリニックにこのパターンが多くなっています。不妊のステップアップ治療自体が患者さんに長期間ストレスを与えているのでそんなものは飛ばして、効率のよい体外受精をしましょうという方針です。
先程、申しましたとおり年齢的に高い方、高度な男性不妊や遺伝的な疾患でARTが第一選択となるような場合はこのタイプのクリニックは適しています。すぐに取り掛かることができるからです。
しかし、まだ年齢もそんなに高くなく、そんなに高度な治療をしなくてもいい患者さんには不向きです。なぜなら、ARTにはそれなりの高額の費用(30~50万円)がかかることと高度な治療をしたら患者さんに治療のレベルダウンできない心理が働くからです。(こんなに究極の治療法をしているのに妊娠しないのは他の治療法ではだめだと思うことです)
すぐにでも子供がほしいということで体外受精を行ない、一回で妊娠すれば簡単でいいのかもしれませんが、実はそんなにすぐに出来るものでもないのが現状です。それが人間の体の不思議なところでなかなか難しいものです。各病院は妊娠率を表示していますが、それも確率の問題で必ずしも本人に当てはまるものではありません。データの取り方もバラバラで統一されていない事も問題とされています。
それに体外受精の場合、採卵はご存知の通り卵巣を針で穿刺しますので体への負担も大きいのが普通です。よって何回もやること自体が逆に卵巣の寿命を縮めることにもなりますし、お金も桁違いに必要となってきます。よってその経済的な面と身体の負担の面はよく考える必要性があります。
(3)ステップアップとARTの両方の利点を活用している病院
以前からこのサイトで取り上げている病院やクリニックがこれに相当致します。とにかくこれらの病院は患者さんの身体的・経済的負担を少なくしたいと思っているので、過剰診療は避けたいという意識が強いのです。場合(高齢など)によっては治療を急ぐし、それ以外の症例では徐々にステップアップ治療を行ったほうが経済的・身体的負担も少ないので、あとは精神的に負担がないようにカウンセリングやサポートを行いながら治療を進めます。ときには中止することによるクールダウンも行なえるような余裕を持つ病院なわけです。ドクターと話し合って相談の中から回答を見つけていくスタイルというのはこれから大事ですよね。(次のページに続きます)