不妊症/男性不妊の原因・検査法

精子研究の第一人者に聞く男性不妊

今回は精子研究(男性不妊)の権威、岩本教授を取材してまいりました。なぜ日本人男性のSEX回数は減少しているのか、どのような治療が望ましいのか、自然妊娠のヒントを考えてみましょう。

執筆者:池上 文尋

今回は那須塩原の国際医療福祉大学病院教授(元聖マリアンナ医大泌尿器科教授)の岩本先生を訪ねてきました。

岩本先生は聖マリアンナ医大を退職後、当病院のリプロダクションセンターに副センター長として勤務された方です。現在は、日本の精子研究の第一人者として、様々なユニークな研究に関わられています。最近注目を浴びている男性不妊やED、セックスレスの問題などを色々と聞いてまいりました。

精子研究の第一人者に直撃!

精子
岩本先生です。日本を代表する男性不妊ドクターであり、大学教授ですが、明るく優しい先生です。
Q)先生はなぜ泌尿器科の中の男性不妊を専門に研究されるようになったのですか? きっかけを教えてください。

A)実は研修医の頃、病院での精液検査は好きではありませんでした。なぜなら特有のにおいがし、精子数の測定や運動している精子を数えたりすることが苦手だったからです。そこで腎移植のチームに入って、そちらを極めるべく学んでいたのですが、過労がたたって肝炎になってしまったのです。それで腎移植チームへの道をあきらめざるを得ませんでした。

復帰後、男性不妊を来たすと言われている精索静脈瘤の手術に関わりました。オペ後に精液所見の改善が顕著なのを見て感動しました。それ以来、男性不妊、特に精子運動が不良のために妊娠しにくい精子無力症に興味を持ち、それを改善することに力を入れてきました。

そして42歳のときにカナダのマギール大へ、運動不良の精子を活発に運動させるにはどうしたらよいかの研究を行うつもりで留学したのですが、当時のボスから何と精子の運動を止める精漿タンパク(精子運動抑制因子/セメノジェリン)を精製分離しなさいと指示され、コケたことを思い出します。ボスはこの基礎研究はいずれ何らかの臨床の現場にフィードバックができる課題だと予見していたのかもしれません。この研究によって不良な精子と良好な精子の鑑別の判定法としての特許を出願中です。

まあ、こんな感じで意図せず進んできた道ですが、これらのテーマがこのように多くの方に注目されるようになるとは夢にも思いませんでした。

一層進んだ精子研究の今

精子
国際医療福祉大学病院の廊下です。ホテルのような感じです。
Q)精子研究について教えて下さい。

A)1992年にデンマークのコペンハーゲン大学スカケベック教授らにより文献的な検索から地球規模でここ50年間に精子数が半減しているとのショッキングなレポートが出され、日本人の精子数はどうなのか、旧厚生省が私どもに委託されたわけです。そのデータに関してはすでに論文にしていますのでご覧下さい。詳しくは別の機会にお話できればと思います。

スカケベック教授らは何も精子数減少だけを捉えているのではなく、精巣癌や尿道下裂、停留精巣等の男性の生殖器の異常も同時に増加していることを指摘し、何らかの環境因子の関与(内分泌かく乱物質)を推定しています。デンマークとフィンランドは、同じ北欧であるのに面白いことに全く逆の動向を示しています。すなわちデンマークは精子数が少なく生殖器異常が多いのですが、フィンランドでは精子数が多く、生殖器異常が少ないのです。この要因を探っていくとなにかの鍵になるのかなと思っております。

アメリカでは農村部の飲料水の問題(農薬との関係)がピックアップされています。
 
とにかく今後の継続的な疫学的調査が必要で、様々な事が明らかにされてくると期待しております。

次のページでは日本人男性のSEX回数について伺いました。
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