「沈黙の臓器」と呼ばれる卵巣…無症状のことも多い卵巣の病気
卵巣がんは早期発見が難しい病気です
国立がん研究センターの最新の報告によると、2019年に国内で卵巣がんと診断されたのは1万3388人。著名な翻訳家の米原万里さんも56歳という若さでこの病気によって命を落とされましたが、近年も患者数は増加しています。卵巣がんの基本について解説します。
<目次>
卵巣がんとは……卵巣のう腫とは異なる卵巣の悪性腫瘍
図をご覧ください。卵巣は親指の先ぐらいの大きさの臓器で、右と左の両方に1個ずつあります。そしてなんと、実は卵巣は体のなかでもっとも腫瘍ができやすい臓器といわれています。考えてみれば、生命のもとになる卵子があって、毎月細胞分裂してるところですから、当然といえば当然な気もしますよね。
そんなわけで卵巣にはさまざまな腫瘍ができますが、その中には大きく分けて、良性のことが多い「卵巣のう腫」と、悪性のことが多い「充実性腫瘍」があります。卵巣の腫瘍のうち約9割が卵巣のう腫で、残りの1割が充実性腫瘍なのです。卵巣のう腫に関して詳しくは「卵巣腫瘍ってどんなもの?」をご参照ください。
充実性腫瘍の多くが悪性といわれ、そしてその代表例が「卵巣がん」です。イメージとしては固いしこりのような感じです。卵巣は別名「沈黙の臓器」。自覚症状がほとんどないのに病気が進行していくのが特徴で、なかなか有効な検診方法がなく、早期発見が難しいといわれています。
卵巣がんになりやすい人の傾向……年代は問わないのが特徴的
卵巣がんは40代~60代の女性に最も多く見られますが、思春期から高齢の女性までなる可能性があります。年々増加しており、排卵の回数が多いほど(妊娠・出産の経験がない、少ない女性ほど)発生率が高いという説もあります。「産む、産まないで何が変わる?おさえておきたい病気特集 妊娠、出産で変わる病気のリスク」も併せてご覧ください。普通、がんといえばかなり年齢がいってから発病するので、そういった意味ではかなり特徴的ながんということになります。
実は卵巣がんのリスクははっきりしていません。ただ、遺伝が関係しているといわれているので家族で卵巣がんの人がいる方は要注意になります。
□年代は40~60歳が多いがあらゆる年齢に発生
□家族に卵巣がんの人がいる
卵巣がんの症状……初期症状は出にくく、進行すると腰痛や生理不順も
腫瘍が小さいうちはほとんどが無症状。腫瘍がこぶしよりも大きくなると、固いしこりが下腹部にできたり、腰痛、下腹部痛、生理不順、また、場合によっては腹水といって、おなかに水がたまったりします。卵巣がんの検査法・早期発見法……有効な検診方法は研究中
本当ならここで最適な方法をご紹介したいところですが、早期発見に役立つ有効な検診方法はまだわかっていません。いろいろな手法が試みられてはいるようですが、なかなか難しいようです。下腹部にしこりを感じたり、便秘でもないのにお腹がいつも張ってくる気がしたら婦人科を受診していただくのはもちろんですが、家族歴があるなど、明らかにリスクが高い人は、子宮がん検診の際に自費になりますがエコー(超音波検査)で卵巣も見てもらうのも一つの方法でしょう。
卵巣がんの治療は手術・化学療法
基本的には手術と化学療法が中心になります。手術で腫瘍を取ることにより、卵巣がんのなかでもどんな種類の癌なのかとか、どこまで広がっているのかがわかります。卵巣、卵管だけをとるのか、リンパ節や他の臓器を広く取るのかはその時々によって違います。また、手術の後は全身に広がっていると考えられるがん細胞に対抗するために化学療法が行われます。卵巣がんは比較的、化学療法が効果的であるといわれています。
痛みを楽にするために、放射線を体の内や外から照射する方法(放射線療法)もあります。
ただし、卵巣がんの治療は病気の時期や年齢、どんな種類かによっても違います。卵巣がんの標準的な治療指針については、日本婦人科腫瘍学会から発表されています(参照:日本婦人科腫瘍学会 卵巣がん治療ガイドライン)。しかし標準的な治療のみだけでは難しい場合もあり、様々な方法が検討されています。