人が変わったように過去を語りだすお年よりも。回想法を身近なケアに取り入れませんか |
眠っていた記憶を呼び覚ます「回想法」
『まあ、懐かしい。この曲、戦前によく姉が歌っていたのよ……』
「びっくりしましたよ。普段、めったに口をきかない利用者さんが、突然、饒舌に語りだしたんです」。都内のグループホームに勤めるAさんは、驚きの体験を明かしてくれました。このグループホームでは、つねづねBGMを流していたそう。クラシックや童謡など、静かな感じの曲が多かったといいます。ところが、CDを「懐メロ集」に取り替えた途端、無表情だったお年寄りの顔がぱっと変わったのだとか。「ご自分も一緒に歌い始めて。次第に周囲のお年よりも参加し始めて、とうとう大合唱になっちゃいました」
回想法は、認知症ケアの手法のひとつ。過去の懐かしい思い出を語り合ったり、誰かに話したりすることで、心の核となる部分を再発見することができます。自分の存在の意味、人生の歴史を見つめ直し、あらためて自尊心を持てるようにもなる、ともいわれています。
提唱したのは、アメリカの精神科医、ロバート・バトラー氏。1960年代に、「過去の経験を振り返り、問題をよく考えれば、解決の方向性を見出すことができる」と主張したのが始まりでした。それまでは、過去を振り返る行為は現実逃避的であり、治療の妨げになるという考え方が一般的だったのです。しかし、実際に効果があることがわかり、回想法は高齢者向けの心理療法として、広く知られるようになりました。
回想法には、専門家などによっておこなわれる「ライフレビューセラピー」と、一般的な「レミニッセンス」とがあります。ここでは、さらに家庭で手軽にできる、ごく簡単な回想法をご提案しましょう。
回想法その1 歴史をネタにする
関東大震災や二二六事件、終戦など、歴史上の大事件をネタに、会話を試みてはいかがでしょうか。スムーズに会話を展開するために、あらかじめ勉強をしておくとよりグッド。前後に起こった事件や、首相の名前、当時、お年寄りがいくつだったのかなどを頭にインプットしておきます。
地域の風土記などを読んでおくのもよいでしょう。「昭和○○年に、川が大反乱した」とか、「大正○年に公会堂ができた」などという話題も、お年寄りの記憶力を刺激するかもしれません。
回想法その2 道具をネタにする
古道具屋さんで見つけた土瓶やかんざし、昔懐かしい駄菓子……。「ほら、こんなの買ってきちゃった」と見せてあげたら、昔話に花が咲くかも。女性なら台所用品、男性なら玩具などもよいでしょう。「どうやって使うの」などと尋ね、実演つきで教えてもらうと、場が盛り上がります。
回想法その3 映画や音楽をネタにする
おすすめは冒頭のグループホームも使っていたという、懐メロCD集。聴きおぼえのあるメロディに、当時の世相や風俗などがいきいきと甦ること間違いなし!ついでに「どんな人が歌っていたの」「歌詞の中に出てくる○○って何?」「当時の銀座って、どんな街だったの」などとさらに突っ込んでインタビューしてみましょう。銀幕の名優たちが登場する、昔の映画もOK。ただし、戦争物や悲しい映画などは、嫌がるお年よりもいるので、観る前によくたしかめて。
レミニッセンスブック(人生の回想録)を作ってみる
お年寄りの自分史を作ってみるのもよいでしょう。子どものころに住んでいた家、よく遊んだ友達、尋常小学校時代の先生、得意だった科目、初恋の人――。記憶を掘り起こしていくうちに、とうに忘れていたことが甦ってくるかもしれません。写真や、関連のある絵などを入れると、さらに充実した作品になります。
ただし、重度の認知症を患っている人や、過去の記憶によって傷ついている人などの場合、回想法は適しません。その方の状態や過去によく配慮した上で、チャレンジしてみてくださいね。
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