分割して返済してもらうことに
社員本人も反省して返済の意思を見せたものの、額が大きいので月5万円ずつ返済してもらうことにしました。この場合の経理処理は、横領された金額を「長期貸付金」として資産に計上しておき、返済してもらう、という処理をすることになります。
なるほど。これなら一見良さそうです。でも月5万円ということは、完済まで17年弱かかることになりますし、他に利息も付けて回収するとしたら、完済はいつのことになるのか、想像もつきません。
そうなってくると、とりあえず横領された金額を損失として計上し、回収できた分だけ収益としたくなってしまうのが人情ですが、税務上はその損失を計上することは出来ません。
返済がなされている以上、どんなに長い期間であっても「お金を返してもらう権利」は有効であると考えられるからです(「貸倒引当金」という引当金を積み、将来の損失に備えることは可能だと思われます。引当金についてはまた別の機会でご紹介します)。
「横領による損失」として処理する
「悪いことをしたら罰を受ける」「人のものは盗らない」 これは、社会生活の基本。どうやら最近、その基本がおかしくなってきているような気がします。 |
この方法が世間一般の常識にもっとも適合するところでしょう。しかしながら、実務上、これも気をつけないといけない点があります。
「横領」と聞くと、それだけで会社に損失が生じたように思ってしまいますが、実はそれと同時に会社は「ある権利」を手に入れることになります。
それは「横領された損失分のお金を返してもらうことが出来る」権利です。
みなさんも「横領されたなら、その分は社員に返してもらって当然」とお考えになるでしょうが、まさにその権利です。
難しめに言うと「求償権」と言ったりもします。
「横領による損失」が発生したとしても、それと同額の「求償権」を手に入れたのですから、横領という事実が発生しただけでは、経済上、何の損失もなかったことになるのです。
この場合には、会社はすぐに横領により生じた損失を計上することは出来ません。社員やその保証人と話し合い、損害賠償額が具体的に確定したときになってはじめて、横領された金額のうち賠償されない金額を損失として計上することになります。