募集広告どおりの賃金を要求できる?
労働基準法では、使用者は労働契約締結に際して労働条件を明示することを義務づけています(詳細は、労働基準法を知ろう(3) 採用時に交わす労働契約についてを参考にしてください)。
入社の時点で賃金額を明らかにしなかったり、好条件を示しながら、入社した後になって低い額に確定するというのは、この「労働条件の明示義務」を果たしていないことになります。そこで労働者は、事前に説明した通りの条件で処遇することを求めることができます。労働契約書を交わしていれば、それが重要な証拠となるでしょう。
労働契約書を交わさず、口約束で入社したとなると、いくら「話が違う」といっても取り合ってもらえない恐れがあります。この場合は、募集広告を根拠に、その金額までの支給を求めることも可能です。
裁判で争われた事例に、求人票や求人広告の内容とは別途の内容で労働契約を結んでいない限り、求人票に示された労働条件が雇用契約の内容となっているものと解釈される(90年大阪高等裁判所)との判決が出ているのが根拠です。会社が、募集広告とは労働契約の内容が異なると主張しても、労働契約そのものを交わしていないのですから、会社の主張は立証できるわけがありません。それ以前に、労働基準法の規定に違反していることがとがめられることになるでしょう。
求人票や募集広告は、それだけ真実性・重要性・公共性などが高いと見なされているのです。転職先が決まっても、それまでの活動で収集した資料や募集広告はしばらくの間、保管しておくべきでしょう。ネット上の求人情報サイトを利用した場合は、該当するページだけでもPCに保存しておくことをお勧めします。
事前説明と異なるときは即時退職もできる
こちらがいくら正当性を主張しても会社が対処しない場合には、相談機関や弁護士などを通じて交渉する手段も講じる必要がありますが、もう一つの方法として、「労働者の即時解除権」を行使することも考えられます。これは、使用者(会社)が労働契約の締結に際して労働者に明示した労働条件が、実態と相違する場合には、労働者は即時にこの労働契約を解除することができる、というものです。入社してしばらく経ったあとに即時解除権を行使するとなると、いくつかの業務が残ることになりますが、もともと会社が公正な態度をとらなかったのが問題なのですから、途中で放り出して退職しても構いません。
入社にあたって遠方から引っ越しして赴任しており、退職したら元住んでいた町に帰るというときには、その費用も請求することができます。
ここまでは、誇大広告で人集めをしたり、労働基準法に定められた義務を果たしていないなど、会社側に問題がある場合の対処を述べましたが、こと、入社して間もない時期の賃金に関しては、転職者側の勘違いで、募集広告と比較した確定給与に不満を感じることもあります。
次のページで、ありがちな勘違いを整理しておきましょう。