『仕事ができない』のが一番の原因
メンタルヘルス白書では、30代に「心の病」が多く現れる要因として、次の3つのポイントを挙げています。●仕事の負担感
●将来への不安
●評価への不満
「仕事の負担感」とは、仕事がつらいとか、職場ではいつもゆとりが持てないといった精神的な負担感であり、仕事量が多くて疲れるというような、物理的なものではありません。今井さんの言葉を借りると、『仕事ができない』という状況が発生することが最も負担感が大きくなるのだそうです。
「与えられる仕事レベルにもよりますが、ビジネスマンにとって、仕事ができないという状況は、人間関係などよりもっと大きなストレスになります。ある仕事を任されて、やってみたけどどうもいまくいかない、あるいは予測できない事態が起きて失敗する。そんなことが重なると、ストレスの負荷が大きくかかってくることになるのです」
通常だと、仕事を進めるにあたっては、上司が指導してくれたり、周囲の人が手伝ってくれたり、必要な知識を教えてもらったりしてなんとかこなして行けるようになるものです。
しかし、昇進して新しい役回りを任されたり、転職して新しい環境に馴染む間もなく、これまで経験のない仕事を任されたときなどに、上司を含む周りの誰からもその進め方を教えてくれる人がいないといった状況になると、与えられた仕事がうまくこなせなくなってしまい、精神的に危険な状況に陥る可能性が高くなります。
「30代は、いまに限ったことではなく、一番働かされるしんどい世代です。でもいまは、上司も経験したことがない新しい技術や業務が次から次へと登場し、その実行を30代の社員に任されるケースが増えていて、昔とくらべれば格段に、仕事の難易度は上がっています。上司はといえば、経験も知識も持ち合わせていませんので、仕事の指示はできても指導はできない、周囲にも知っている人がいないという状態で、結局一人でやるしかないということになるわけです」
成果主義や労働時間管理上の問題も
30代で到達できる立場といえば、通常は、係長クラスから課長補佐、早い人で課長クラスでしょうか。いずれにしても、それほど大きな権限を持てるポジションには就いていないでしょう。にもかかわらず、仕事のレベルとしては、それが成功するか否かで会社の将来が決まるみたいな、大きな仕事を担当させられたりします。加えて、会社間の競争は、いまや国内だけでなく国際間にまで広がっており、さらに重圧感が増しています。「それでも、仕事を任せた上司が、『俺が全責任をとる』というのであればいいのですが、責任だけ押しつけて、権限を与えないというケースも少なくありません。失敗してもいいからやってみろ、といわれればそうストレスを感じずにすむのですが、実際には、失敗したらその責任を押しつけられることが少なくないのです。これでは、仕事の負担感は増すばかりですよね」
その結果として、成果主義を盾に評価が下がり、賃金も下がってしまうことになったのでは、働く側としてはたまったものではありません。
一方では、裁量労働制の導入などにより、それぞれが一匹狼的な働き方を認める方向に向かっていて、手助けが必要なときに、周りに誰もいないといった状況にもなっています。こうしたことのしわ寄せが一番集まりやすいところ、それが30代だということです。