転職のリスクを乗り越えた2人の体験談
35歳からの転身を考えるとはいっても、そこには30代前半までの若い世代にはないリスクがあります。求人の絶対数が少ないこと以外に、家族が反対する、会社が辞めさせてくれない、住宅ローンや教育費などでお金が必要、といったことなどです。もちろん、すべての世代に共通の問題として、転職先でよりよい人間関係が築けるのか、将来も安心して働けるのかという不安もつきまといます。しかし、転職に限らず、何か新しいことにチャレンジしようとするときはリスクを負うのは当然のことです。リスクがあるなら、それをどうやって乗り越え、成功の確率を高めていくかを考えればいいことです。ここでは、そんなリスクに正面からぶつかり、転職に成功した2人のケースを紹介しましょう。
●反対する妻を現場に連れ出して説得したIさん
現在、総合フードサービス会社の人事課に勤務するIさん(39歳)は、ちょうど35歳のときに、アパレルメーカーから転身しました。
前の会社は、大学を出て入社したころはまだまだ活況のある業界でしたが、中国製品などに押されて業績は次第に悪化。それでも、新規事業開拓など新しい動きはありましたが、Iさんが得意とする採用の仕事はほとんどなくなり、リストラ含みの異動発令中心の業務になっていました。
総務・人事の専門家として仕事の幅をもっと広げたいと願っていたIさんは、思い切って転職を決意。当時はまだ無名だった会社に飛び込みました。給与は幾分低めの提示だったのですが、新しい戦略を持ってフードサービス業界に新風を吹き込みたいという社長の言葉に、将来性を感じとったのです。
その期待通りに、Iさんが入社して2年後に、会社は株式を店頭公開。フランチャイズ展開も順調で、本部の陣容も大きくふくらみました。現在は総務職も一部兼任で、課長補佐として新入社員の面接から研修プログラムの作成まで、充実した日々を送っています。給与は入社時から比べて3割ほど増えています。
家族は妻と子供一人。奥さんとは前の会社での職場結婚です。そんなこともあってか、奥さんは「飲食業界だなんて、成熟産業もいいところじゃない」などと転職に強く反対しましたが、会社の店に連れて行って、実際に会社を知ってもらうなどの努力をし、従来の会社とは違い戦略をもった会社なんだと説得したのだそうです。
●発想を切り替えて未経験の仕事にチャレンジしたKさん
もう一人は、大手電機メーカーから特許事務所に転職したKさん(36歳)。2年前まである先端分野の製品開発に取り組んでたのですが、会社の方針で、その分野から完全撤退することになりました。
その知らせを聞いて、Kさんは胸にぽっかり穴が開いたような状態だったそうです。会社は当然、新しい仕事への異動を命じてきましたが、どうしても受け入れられず、放心状態のまま会社に退職願を出してしまいました。
しかし、35歳にもなるとなかなか希望の仕事に巡り会えるものではありません。人材紹介会社に登録して、1カ月ほど経った頃、ある特許事務所が電気電子に詳しい人を探しているとの紹介を受けました。開発一本できたKさんにとって、未経験の事務系の仕事です。
初めは、そこで働く自分の姿を想像することすらできなかったそうですが、しばらくすると、むしろこれまで経験のない仕事をやってみると、何か新しい発見もできるかも知れないと思えるようになりました。そこで、その紹介に応じて面接を受けたのです。
メーカーにいた当時は、会社の屋台骨は自分たち技術者が支えているという自負があったそうですが、特許事務所での仕事を通じて、事務系の仕事であっても、それぞれの立場で重要な役割を果たしていることに気づいたそうです。現在は、弁理士の補佐業務に当たっていますが、いずれは、自分も資格取得にチャレンジしたいと新しい目標に向かって勉強を続けています。