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「両さん」はストリートレベル公務員

ストリートレベル公務員
役所内で日々働くわけではない外勤警察官などが持つ「エネルギー振り分け裁量」
公務員の中には、いつも役所の中で席に着いているわけではない人、あるいは、自衛官のように常に上官の指揮監督の中にいるわけではない人たちがいます。

つまり、いわゆる「おまわりさん」である外勤警察官、あるいは毎日各家庭を廻るケースワーカーのように、日々市民と接しながら、役所の「外」で活動している公務員たちです。

彼らのことを、M.リプスキーという人は「ストリートレベルの公務員(行政職員)」と名付けました。リプスキーは、彼らは(1)上司の濃密な指揮監督を受けず、(2)なかば独立的に仕事をしている公務員たちと考えています。

マンガ『こち亀』の主人公、いわゆる「おまわりさん」である「両さん」のことを知っている人は、彼がストリートレベル公務員だというとわかりやすいのではないでしょうか。

「両さん」の上司は、いつも両さんの職場である「派出所」にくるわけではなりません。たまにきて、「両さん」を叱ったりします。いないときは、「両さん」は独立した自由人になってしまう、ここがこのマンガの面白いところです。趣味に没頭したり、街を歩いているうちに騒動に巻き込まれたり……。

裁量の余地が多いストリートレベル公務員

公務員は一般的に「法適用の裁量」を持つといわれます。

これは新人の市役所職員であっても持っているものです。窓口で書類に不備があるからもう1回書き直して下さいと言うか、じゃあこちらのほうで訂正しておきますとして書類をうけつけるか、これも法適用の裁量が発揮された例です。

もちろん、外勤警察官も法適用裁量を持っています。たとえば一時停止すべきところでその車がしていたか、していなかったか。それを判断し、反則切符を切るかどうかを決める……これももちろん、法適用の裁量です。

しかし、ストリートレベル公務員はさらに「エネルギー振り分けの裁量」を持っていると言われています。

さきほどの「両さん」は、上司である部長がいないときにはやりたい放題です。パトロールも食事の時間も、休憩時間も彼が適当に決めているようなところがあります。あれはマンガなので多少誇張されていますが、あのように「今日何をするか」を公務員自ら決める裁量が「エネルギー振り分けの裁量」なわけです。

これは、さすがに一般の公務員たちは持つことができません。たえず上司の目の届くところで仕事をし、食事の時間も休憩時間もしっかり決められているなかでは、エネルギー振り分けの裁量を持つことは難しいものがあります。

そのため、ストリートレベル公務員は一般公務員よりも持つ裁量の幅が大きい……というのが、リプスキーの研究の結果なのでした。もっとも、まじめに仕事をしようとする公務員にとっては、この裁量の広さはむしろどの仕事により裁量をふりわけるべきかというジレンマに変わってしまう、ともいわれています。

ストリートレベル公務員の統制

ストリートレベル公務員の統制
ストリートレベル公務員の統制は、下手をすると「副作用」が起きるといわれている。
上司が常に監視しているわけではないストリートレベル公務員の勤務評定は、業務記録に頼らざるを得ません。反対に言うと記録がなければ評定がつけられない。「両さん」が月末になると記録の整理に追われるシーンが、『こち亀』ではよくでてきます。

しかし、反対に言うと業務記録にいい記録がのっていればよい勤務評定になることから、ストリートレベル公務員はしばしば点数稼ぎに走ることがあります。白バイ1台で行っている「ねずみ採り」などはその典型です。これはしばしば国民の反発を招くという副作用をともなってしまいます。

もう1つ、法令や通達を多くしてストリートレベル公務員の統制を行うことも試みられます。しかしそれは同時に、「複雑な法令知識」を盾にしてストリートレベル公務員が逆に裁量を広げてしまうことにもなりかねないと、畠山弘文は分析しています。法令に無知な市民を相手に、不遜(ふそん)な言動をふりかざすという副作用が、ここにも現れてしまうというわけです。



※参考書籍・サイト
『行政学』 西尾勝 1993 有斐閣
『[第2版]行政学教科書』 村松岐夫 2001 有斐閣
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