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不戦条約はなぜ戦争を止められなかったのか(3ページ目)

1928年、第1次世界大戦のような悲惨な戦争を繰り返さないように、国際社会は戦争の放棄をうたう不戦条約を結びました。しかし、結果は……不戦条約が機能しなかった理由と、現代にもつながる課題などを考えます。

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【不戦条約とはどんな条約だったのか】
2ページ目 【国際的「ユートピア主義」の崩壊】
3ページ目 【21世紀の平和維持にも必要な「リアルな視点」】

戦後もあったユートピア思想

イラク戦争
イラクでのアメリカ兵。21世紀になっても戦争はなくならない(写真/アメリカ政府サイトより)。
さて、第2次世界大戦後、アメリカとソ連は核兵器の開発競争を進め、「恐怖の均衡」と呼ばれる冷戦の時代に突入していきました。

そんななかで、「アメリカとソ連が和解し、核戦争の脅威が去れば、人類に平和が訪れる」という、またしてもユートピア的な考え方がもちあがってきていました。

しかし、それはやはりユートピアに過ぎませんでした。冷戦構造が崩壊して、世界ではむしろ戦争が増えました。「9.11」のようなメガトン・テロまで起こるようになりました。

冷戦構造の影で封印されていた民族主義や反先進国主義、宗教対立などの「リアリティ」をしっかり把握することを、人類は核兵器の恐怖のなかで忘れてしまった、気付かなかった。

カーのいう「リアリティの欠如」によって、一気に噴出した民族紛争やテロ。これらの犠牲になった人々は、ひょっとすると世界大戦に匹敵する大きな数に上ってしまうのではないでしょうか。

まだまだこのような戦争はなくなりません。外交や国際政治から「リアリティの欠如」をなくし、紛争の原因をしっかり見定め冷静に対処していくということは、20世紀のみならず、21世紀の現代でも大きな課題のままである、といえます。

リアルな平和構築とはなにか

そんななか、2度にわたる世界大戦の舞台となったヨーロッパでは、逆に「統合」の動きがさかんになっていきました。それは、非常に具体的な目線から生まれたものでした。

2度の世界大戦のことを「フランス=ドイツ100年戦争」という人もいます。この2国を中心に、19世紀後半に普仏戦争、そして20世紀に2度の世界大戦がおこったからです。その元凶として、両国の国境間に眠る鉄鉱石や石炭という資源の問題があったといわれました。

両国の平和的関係を築くため、これらを共通管理することを目的として、フランス・ドイツと、その他のヨーロッパ諸国が加わってできたものが欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)です。

そしてこれを母体にして、経済、原子力、農業、ほかさまざまな協力がヨーロッパで進みはじめ、その結果として1993年にEU(欧州連合)が発足したのです。

今や東欧を含め27国で組織されるEUは、このように具体的なひとつひとつの協力の積み重ねによってできたもので、そして今、ヨーロッパを平和的にまとめています。

ドイッチュという国際政治学者は、人々のさまざまな交流が進むことにより、「安全保障共同体」が構築されると考えました。彼によるとアメリカとカナダの関係は、戦争をすることができないくらい交流が進んでおり、「安全保障共同体」が実現しているとされています。

「独善的なユートピアニズム」をどうやって排すべきか

リアルな目
自国本位ではなく、お互いの国の利害をリアルな視点で見ていくこと、それがリアルな平和維持につながっていくのではないか。
日本と中国、日本と韓国も、経済的・文化的交流が進み、ドイッチュのいう意味で戦争のできない状況に近づきつつあります。

おたがいに、他国との関係を遮断すれば、かえって自国が大きな損害を被るような状況でしょう。国際関係論では、このような状態を「相互依存」といいます。

日本は中国や韓国からの輸入がなくなってしまえば経済がなりたたなくなるでしょうし、中国や韓国でも、日本との貿易が経済に占める比重は大きいものになっています。

さらにこのような関係をリアルな目線で進展させ、協力関係を確固たるものにする必要があるでしょう。すでにAPEC(アジア太平洋経済協力会議)などで、それへの取組みは始まっています。

しかし、ネットなどで中国や韓国について、感情的に非難する文章が目立つのも最近の傾向です。

リアルな目線を忘れた「自分の頭のなかだけの視点」はまさに独善的なユートピアニズムです。彼らのなかから中国や韓国がなくなれば平和で嬉しいのでしょうが、現実的にそれはありえません。

われわれは、「全ての当事者の立場」で平和を維持するという目標を立て、そしてリアルな視点や考え方をもって、具体的な平和構築を行っていかなければなりません。

日本にとって多少は不愉快なことでも、それがリアルな意味で平和維持につながるなら、それを実行していくことが必要です。……平和維持は、願う心や感情論では決してできないということを忘れてはならないと思います。

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